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56.迷子の子9
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「はっ!そうだった!」
圭はすっかり蒼のことを忘れていた。
そして慌てて高塚を紹介する。
「あの、こいつ」
「あれ?ドイツで?」
桜はよく覚えているなと思う。
「あ、おれ。音楽の時間社の高塚といいます」
「記者だよね?」
「ええ、ですが。今日からは圭くんのマネージャーをやらせてもらうことになりまして」
「マネージャー?」
桜と野木は顔を見合わせて笑う。
「ええ!関口に御付の人が出来たんだ!」
「笑わないでください!おれだってどうなのかなって思うんですから」
いつまでも笑っている野木を見て桜も笑いをこらえる。
「ちょっと、そんなに笑ったら失礼でしょう?」
「そういう桜さんだって、すげえ笑ってるじゃない」
「ごめんって。分かったよ!いいって。うん。いいことだ!高塚、あんた、こいつのこと面倒みてやってね」
桜は笑いを殺しながら圭を見る。
「なんだか失礼しちゃうなあ。って!高塚の紹介に来たわけでもなんでもないんですってば。蒼!蒼を探しているんです!」
「蒼?」
「あいつ、また、ふらっといなくなっちゃって」
「蒼なら、さっきまで飲んでたけど?」
「やっぱりっ!」
ここに来ていたのか。
「一番に来てね。まだ店やってないって言ってんのに。飲ませろってきかないから。日本酒与えてみた。そしたら、いい気分になったみたいでさ。さっさと店出て行ったよ」
「桜さん!そういうときは、頑として断って構わないですから」
「だけど。あんたの付けでいいって言うから」
そうだった。
無一文で出かけていったのに。
酒を飲むなんておかしいと思ったのだ。
桜もおごるはずがない。
無銭飲食だ。
「付けならいいやって一番高いのを飲んでったぞ」
野木はにやっと笑う。
なんだか陰謀だ。
「酷い!ぼったくりバーめ!」
「酷くないだろう。どうせ、蒼のこと放置しておいたんだろう?可哀相に」
「ぐ」
「圭ぃ~。幸せだからって、安心しきっていると足元すくわれるんだからな」
そういう冗談を笑顔で言わないでもらいたい。
なんだか、いつもよりも焦りを感じた。
蒼に限ってそんなことはないのだ。
だけど、これは自分一人の思い過ごしか?
このまま蒼がいなくなったらどうしよう。
余裕をかましていると痛い目にあうのかも知れないのか。
圭はこうしてはいられないと思い、高塚をつまみあげて店を出る。
「ちょっと!付けはいつ払うわけ?」
後ろから桜の声が響く。
「次に付けといてください!」
桜と野木はおかしそうに顔を見合わせた。
「からかうと面白いね」
「本当だ」
蒼が圭のことを嫌になるなんて、ありえないってことだ。
二人はよく分かっている。
さっきまで、散々ここで飲んで圭とのおのろけを聞かされたばっかりだったんだから。
「幸せ者はからかってやりたくなるもんだ」
「そうそう」
カランカランとドアが開いて常連客が顔を出す。
「おいおい。見せ付けてくれるなよ」
「お!いらっしゃい」
「今日は遅いじゃないか」
圭が去った後の店は続々と常連客がやってくる。
桜たちは圭たちのことにかまけている暇ではなくなった。
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