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56.迷子の子10
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桜の店を後にした圭は次のチェック場所に移動する。
さっきまでの余裕がなくなってしまった彼を見て、高塚はうっすら笑う。
本当に蒼のことが好きなのだろう。
「圭くん。次はどこに行くの?」
「次はあいつの行き着けの古本屋だ。結構、そこで立ち読みをしているらしいんだ。それをはじめると遅くなる。この前遅かった時は、ここで古典小説の立ち読みに没頭して時間を忘れたと言っていたんだ。だけど、今日はちょっと話が違うな。最初に桜さんの店で飲んだなら、立ち読みとか出来る余裕はないと思うんだけど」
困ったものだ。
紐でも付けておきたいくらい。
さっそく、本屋に到着する。
昔ながらの店で、客がいなくなったら閉めると言うシステムらしい。
今日はまだ営業中ってことは客がいるのだろう。
小さいけど、品揃えのある店は蒼にとったら宝の山みたいな場所だ。
圭が顔を出すと、店主のおばちゃんが顔を上げた。
「あの、あれ来ていますか?」
あれで通じるのだからすごい。
おばちゃんはにっこり笑う。
「なんだい。また行方不明?」
「そうなんです」
「この前はずいぶん本に没頭しちゃってね」
「すみません。いつまでも閉められなかったですよね」
「いいよ。お得意様だしね。あの子は放っておいても大丈夫なお客さんだから。こっちは勝手に夕飯食べさせてもらっていたよ」
常連中の常連か。
高塚は呆れてしまう。
「さっき、ちらっと来ていたんだよ」
「え!」
「で?」
高塚の声におばちゃんは苦笑いする。
今日はもう一人増えたと言うところなのだろう。
「ふらふらしながら入ってきてね。珍しいな~って思っていたら、なんだかすぐ別なお客さんに声をかけられて一緒に出て行ったよ」
「だ、誰ですか?」
「さあね。初老の結構いい男だったけど?」
「いい男って!」
誰だ?
そんないい男を圭は知らない。
混乱している彼の後ろでは高塚がおろおろし始めていた。
「ああ、蒼くん。ナンパされたんだ!きっと。いや。拉致かもしれない。売り飛ばされているかも!誘拐事件だっ!」
「他に特徴はないんですか?見たことある人ですか?」
圭は食い下がる。
ここに新規のお客さんが来るとは考え難いし、蒼が見ず知らずの人についていく訳がないと思ったからだ。
「そうね。本当にたまにだけど来てくれる人だね。えっと……いっつも日本酒の本を買ってくかな?」
おばちゃんの言葉。
ピピン!ピンときたっ!
圭は一気に高塚を担ぎ上げる。
「へ!?」
「ありがとう!おばちゃんっ!」
「気をつけていくんだよ~!」
「あ、あの、あの?あの~?さっきのあれで何か分かったんですか?」
「もちろん!」
「はあ」
運転をしている圭の横顔を見てため息しか出ない。
なんだって騒々しいカップルだ。
こんなのに付き合わなくてはいけなくなったなんて、ちょっぴり後悔だ。
スリリングだ。
ふっと椅子に背中を預けて車内の時計を見る。
もう21時を回るところだ。
お腹も空いたし。
蒼が拉致されたのに、圭の運転は安全極まりないものだった。
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