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57.蒼の誕生日4
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「いや~!んじゃ、帰るかな」
星野の大きな声にはっとして顔を上げると、時計は17時を指していた。
珍しい。
「なんだ、星野も帰るのか?おれも帰ろうと思っていたんだ」
氏家もそう言うと、かばんを持ち上げた。
「今日は孫が来るんでな」
「え、みんな帰っちゃうんですか?」
いつもだったら残業で19時くらいまで、うだうだしている人が多いのに。
「この雪だしな。こういう日はさっさと帰りたいって」
「そ、そうですよね」
「なんだよ~!おれと二人の遅番は不満か?」
遅番担当の吉田がぶ~っと口を尖らせた。
「え!いや!そういうわけじゃ」
「なら、いいじゃないか」
「そうそう。いつもお前だってさっさと帰るんだからさ」
それはそうだ。
なんで今日に限って寂しく感じるんだろう?
誕生日だからかな?
嫌になる。
「すみません!大丈夫です」
「素直でよろしい」
星野は苦笑してコートを着込んだ。
「今日も冷えるな~」
彼がさっさと帰るなんて。
きっとデートなのだろう。
結局、定時で帰宅してしまった人が数名いて、事務室には吉田と尾形が残った。
しかし、自分の仕事をしていた尾形もさっさと帰宅をしたので、事務室は一気に静かになった。
この雪のせいで、練習が入っていた団体でキャンセルになったところもあって、星音堂の中は静寂に包まれていた。
仕事をあらかた片付けてしまった吉田は、ソファにもたれてテレビを見ている。
そんな様子を見てから、蒼は外に視線を向けた。
圭からメールが来ないけど、帰ってきているのだろうか?
音沙汰がないことが最近増えてきている。
仕事で忙しいのだろう。
予定も変わることが多いし。
東京に出ることも多くなっていた。
しかし、そういう蒼だって市民合唱の練習には出来るだけ参加しているようにしているので、圭と予定が合わないことも多い。
ここのところ、なんだかばらばらの生活になっている気がした。
「蒼~、もう時間になるよ。そろそろ閉めちゃう?」
ふと吉田の声に顔を上げて時計を見る。
時間は20時45分だったが、もうどこの団体も利用していないのだ。
今日は少し早いけど、帰ってもいいだろう。
「そうですね。終わりますか?」
「うん。見回りもしてきちゃったし。帰ろう」
「はい」
吉田に促されて、荷物をまとめる。
外に出ると空気は冷えきっていた。
昨日の雪が日中に解けて、また凍っている。
がちがちのアイスバーンだった。
「転びそう」
「自転車は危ないな」
「そうですね」
二人は苦笑する。
ほっと息を吐く吉田を見て、蒼は思わず彼の腕を掴んだ。
「吉田さん」
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