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57.蒼の誕生日7
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「まさか!おれが料理をするわけがないだろう?これはあの兄ちゃんがやってくれたんだ」
野木がそっと教えてくれた先には星野が立っていた。
「星野さん??」
「え?そうそう。これはおれの作品だからな。結構いい出来栄えだろう?お前の重箱弁当には負けないからな!」
こういうところで張り合われても困る。
今日、定時で帰ったのはこのためだったのかも知れない。
きっとせっせと創作活動の一環として造ってくれたのだろうと言うことは安易に想像できた。
「さすがっ!星野さん」
「料理も達人技ですよね」
「本当だ」
星音堂職員の意見に彼は大満足の様子だ。
星野にとったら最高の誉め言葉だもの。
その様子を見ていた水野谷は、はっと声を上げる。
「そうだ。今月、まだ飲み会してなかったし。これで代替にしてしまおう」
彼の言葉に一同は賛成と、手を上げる。
「おれの誕生日が、ただの飲み会になっちゃった」
蒼は呆れて苦笑いだ。
だけど、初めてだったから嬉しい。
こうして、職場の人が自分の誕生日をお祝いしてくれるなんて思ってもみなかった。
元は言えば、圭がこの話題を星野に話してくれたから実現したこと。
ふと隣でにこにこして座っている圭を見つめる。
「ありがとう。圭」
「へ?おれは何もしてない。場所を提供しただけだ」
「そんなことないじゃん。嬉しいよ。こういうの」
料理の取り合いになっている星音堂職員たちを見ながら圭は更に笑う。
「おれからのプレゼントはこれからなんだけどね」
「え?」
彼は苦笑して側においてあったヴァイオリンを手に取った。
「最初に会った頃から、蒼にプレゼントしたかった曲があってさ。なかなか演奏する機会もなくてお流れになっていたんだけど。今日は聞いてもらいたいなって思って」
「え!う、うん」
彼がピアノのところに行って弦の調整を始めると、一同は静かになる。
「お~!おれ、お前の演奏をちゃんと聞いたことなかったぞ」
吉田は、ほろ酔いだ。
嬉しそうに手を叩く。
「そうだな。世界の関口先生の演奏、ライブで聞けるなんて滅多にないぞ。心して聞こうぜ」
星野も満面の笑みだった。
彼が、自分のためにだけに弾いてくれるって初めてのことかもしれない。
蒼はドキドキして彼を見つめた。
すらっとした容姿。
長身で痩せていて。
圭一郎そっくり。
針金みたいな圭。
だけど、蒼のことをぎゅっと抱きしめてくれるその腕は温かくて力強い。
弦の添えられる長い指。
少し色素の薄い髪。
まっすぐに物事を見据える視線。
どれも蒼の好きなもの。
「じゃ、弾きます」
知っている人ばっかりって言うのも恥ずかしいものだ。
圭はちょっと咳払いをしてから演奏を始めた。
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