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57.蒼の誕生日8
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静かに始まる甘い旋律。
盛り上がりも、情熱も、何もない。
淡々としたペースで進む曲だったけど、それは人の心を温かくしてくれる愛情溢れる曲だった。
じっと聴き入ってしまう。
彼の演奏が終わるまで、誰も一言も発することはなかった。
瞳を閉じて、圭の音を感じてみる。
どの音も。
間の休符でさえも。
蒼のこと。
好きだよって気持ちが伝わってきた。
嬉しい。
蒼にとったら最高のお誕生日プレゼントだ。
彼の世界に浸りながら、本当に自分は幸せ者なのだなって実感した。
演奏が終わっても、しばらくは誰も黙っていた。
そして、吉田の拍手を合図に、店内は喝采で盛り上がった。
「ひゅ~♪」
「いいぞ!世界のセキグチッ!」
彼への声援はいつまでも続く。
星音堂の職員たちも大満足だったことだろう。
そして。
蒼も。
ちょっぴりほろっときたけど、嬉しい席に涙は禁物。
ちょっと目元を拭ってから笑顔で彼を見る。
圭はまっすぐ蒼を見ていた。
これからもずっと一緒にいられたらいい。
そう思う。
最初は最低の誕生日だなんて思ったけど、今日は本当にいい日になった。
23年間。
生きてきて、一番素敵なお誕生日になったと思う。
「ありがとう。圭」
そう呟くと、彼もにっこり笑っていた。
「そうだ!」
ふと星野が大きな声を上げる。
「関口の誕生日はもう半月もすれば来るんだよな?」
「え?ええ」
「だったら、このままついでにやっちゃおうぜっ!」
「ついでって!?」
ひどッ!っと圭はショックを受ける。
「いいじゃん。またやるの面倒だし」
「それはそうだ」
吉田も大賛成。
「ちょ、ちょっと.みなさんっ!」
蒼は蒼で圭のお誕生日のこと、考えていたのに。
勝手に盛り上がって合同誕生会に発展する。
「それがいい。誕生会なんて何回もやるもんじゃないわ」
桜も爆笑だ。
「そんな、桜さん」
「今日は、あんたたちの貸切なんだからね。こっちは商売上がったりだわ。こういうのを何回もやられたんじゃたまらないもんね」
「そうそう」
彼女の言葉に野木も笑う。
「じゃあ、みんなで!圭もおめでとう!」
乾杯ーっと嬉しそうにジョッキを掲げる尾形に合わせて乾杯コールが巻き起こった。
「ぐ~……。仕方ない。甘んじて受けよう。その乾杯」
圭は涙をこらえて誕生日を祝ってもらっていた。
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