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58.雨の日に来たもの6
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結局、あちこち駆け回って物品をそろえた頃、ミルクの時間になってしまった。
猫はミーミー鳴いている。
こういうとき、お湯をポットに持ってくるんだった。
慌ててアパートに戻り、ミルクを上げておしっこを促す。
仰向けで上げていたけど、誤嚥してしまうからダメらしい。
うつぶせにしてなんとか哺乳瓶を口にあてがう。
スプーンなんかよりも上手に吸えているようだ。
ほっとした。
ため息を吐いて時計を見る。
まずい。
今日は病院に連れて行くなんて大見得を切ったのだ。
もう蒼の帰ってくる時間になっちゃうじゃないか……。
慌てて猫の始末をしてから外に出る。
こいつ。
さっきまでミルクを飲んだり暴れていたのに。
もう寝ている。
猫って寝ているイメージがあるけど、本当に寝てばっかなんだな。
「おい。行くぞ、病院」
「ニュ~」
眠そうにむにゃむにゃしている猫を抱えてアパートを出る。
階段を下りていくと、ばったり1階の住民に出くわした。
大体、狭い小さなアパートだ。
大半が一人暮らしなのだ。
それなのに。
狭いところに男二人で住んでいるだけで不審そうに見られているって言うのに。
今日は猫を抱えていたからまずい。
おれは慌てて猫をコートで隠す。
「こんにちは」
愛想よく笑ってみるものの、うまくはいかない。
大体、愛想笑いなんておれの辞書にはない言葉だ。
相手の女性はジロジロおれを見ていた。
まずい。
なんだか本当に心象を悪くしている様子だ。
あははとごまかし笑いをしてから急いで車に乗り込む。
「は~」
なんだかちょっとしたことなのにどっと疲れてきた。
限界かも知れない。
ここに住むのも。
蒼は朝起きて仕事に行くからいいけど、おれなんてフリーターみたいなものだ。
それじゃなくても怪しいのに、大の男が日中からこうしてフラフラしていたのではますます怪しいに決まっている。
おれだって、そんな得体の知れない人間が同じアパートにいたら絶対に不審に思う。
引越か。
どこかもう少し広くて、しっかりしたところ。
マンションのほうが絶対いいと思う。
あんまり干渉されないような気がするし。
それとも小さい借家でもいいから一戸建てがいいかな?
色々なことに思いをめぐらせていると、「ニャ~」と声が聞こえた。
忘れていた。
猫、いたんだっけ。
慌てて視線を巡らす。
運転中だから危ないけど。
助手席にいたはずの猫はいない。
「あれ?猫?どこだ??」
「にゃ~」
どこから??
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