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58.雨の日に来たもの7
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赤信号で止まって後ろを見ると、後部座席の椅子のてっぺんにツメを立てて掴まっている。
「わわ!」
本当に何してんだか。
ブレーキ踏んだら吹き飛ばされるぞ!
なんとか猫を手元に引き戻そうとするが、うまくいかない。
そのうち、信号は青になってしまい、後ろからクラクションを鳴らされた。
「わかっているってっ!」
もう。
なんだか調子が狂うな。
車を発進させてからも、奴が後ろの椅子でツメを研いでいる(実質は研げていないだろうけど)音が響く。
「ああぁ。おれの車……」
動物病院について、後部座席を確認すると毛羽立ってしまっている。
仕方ないんだろうけど。
もう乗せてやらないんだからなっ!
猫を摘んで座席から離すと、手足をバタバタさせて暴れていた。
車が気に入ったのか?
困ったものだ。
昨日はみすぼらしかったこいつも、結構、毛が長いみたいで、毛玉みたいだ。
首根っこを掴んだまま、中に入ると、にこにこ愛想のいい女性が受付にいた。
「こんにちは」
「どうも」
「初めてですか?」
「はい」
「ではここに必要事項を記入してください」
猫をカウンターのところに放り出して書類を見る。
自分の名前に住所か。
そして。
へ?
猫の名前??
やっぱり名前が必要なのか?
「カルテを作っているので猫ちゃんのお名前も書いてくださいね」
彼女はそう笑って話す。
困った。
こいつの名前。
まだ決めてないんだった。
ちらっと猫を見る。
猫は受付の女性に撫でられて気持ちよさそうに喉を鳴らしていた。
本当に誰にでも懐くんだから。
まあ、適当でいいか。
毛玉みたいだし。
だけど、「毛玉」って名前じゃ芸がないしな。
けだま?
けだま……
けだま。
けだも?
けだも??
うん。
いい。
決めた。
名前は「けだも」。
おれは猫の名前の欄に「けだも」と記載した。
「関口けだもくん~」
その呼び方におれは思わず吹き出した。
自分でつけた名前だけど、「けだも」ってありえない。
蒼に知れたら怒られるかな?
おれは笑いを押し殺しながら、けだもを連れて診察室に入った。
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