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58.雨の日に来たもの8
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動物病院なんて、生まれて初めて入る領域だから物珍しかった。
結構、混んでいるから待たされた。
他にも犬やらハムスターやら、鳥やらを抱えた人がいたので飽きなかったが。
やっぱりペットブームなんだろうな。
そう思いながら医師を見つめる。
人のよさそうな初老の男だった。
彼は人間の病院にいる医師と同じような緑色の術衣を着て聴診器をぶらさげていた。
「どうしました?」
「あの。どこが悪いって訳じゃないんですけど。昨日、道端に捨てられていたんです。それで、今日はどこも悪いところがないか診てもらいに」
おれが説明をしている間に、側にいた看護師二人は「可愛い」「可愛い」とけだもを撫でたりしていた。
「そうですか。じゃ、今日は一般的な健康診断をしましょう。まずは熱を測りますね」
そういうと、細長い体温計の機械を出す。
どこで計るのかな?
そんな疑問がよぎった瞬間。
医師はけだものしっぽを掴むと、持ち上げてお尻に体温計を刺した。
「にゃふっ!」
けだもはビックリしたみたいで、ぽてっと横に倒れた。
リアクションが蒼みたい。
おれは思わずにやっとしてしまう。
看護師たちもそれを見て笑っている。
「大丈夫だよ~。けだもくん」
「もう終わるからね」
優しく声かけをしてなだめてくれているようだ。
お尻に変なものを入れられて、奴はう~、う~っと怒っている。
おれはどうしていいかわからないからおろおろするばかり。
「体温は正常ですね。体重は……と」
体温計を抜き取って、それから診察台の脇にあるスイッチを押す。
この台自体が体重計になっているようだ。
「うん。体重も大丈夫でしょう。350グラム。この格好からすると、生まれて1ヶ月もしないところでしょうね」
医師は聴診器を当てて胸の音や、おなかの音、喉の辺りの音を聴取していた。
「音も異常がないです。一応、血液検査もしておきましょう。まあ、身体に異常はなさそうですね。後、もう少し大きくなったら予防接種をしておいたほうがいいと思いますけど」
「予防接種ですか?」
「室内で飼うにしろ、今は猫の病気も多様化していますからね。一応、念のためにやっておいたほうがいいと思います」
「それって、まだいいんですよね?」
「もちろん。もっと大きくなってからの話ですね。本当だったら、まだお母さんの母乳を飲んでいる時期なんですけど、この年で離されちゃうと免疫がつかないんですよ。ですから、適齢になったら早めの注射をお勧めしますね」
そうだな。
蒼に相談しないとダメか。
「じゃ、これから血液だけとりますね」
注射器を用意していた看護師に押さえつけられて、ニャーニャー鳴いているけだもは血液をとられた。
可哀相に。
だけど、健康診断だ。
仕方がないんだから。
診察室を出る頃、けだもはめっきり元気がなくなっていた。
しょんぼりだ。
「元気出せって。美味しいご飯あげるからな」
頭を撫でてやると、目を閉じてすりすりしてくる。
本当に可愛い。
少し待っていると、受付の女性に名前を呼ばれる。
保険が利かないから結構掛かるのにビックリした。
こんなに費用が掛かるのでは困るな。
今後、病気にはかからならないように気をつけないと。
車に乗って携帯を見ると、もう18時を回っていた。
蒼からは数回着信が入っている。
もう帰っているのかも知れない。
病院でノミとりだと言う首輪を購入した。
真っ赤なやつ。
けだもは真っ黒だから似合うと思う。
だけど、まだまだ小さいけだもには不恰好な奴だった。
困っていると、看護師が赤いリボンをくれた。
「けだもちゃんにはまだ早いのかも知れないですね~。こっちで我慢だよ~。けだもちゃん」
ちょんと結ばれたリボンはけだもに似合う。
看護師と一緒になってにやにやしていた自分に気が付いて恥ずかしくなり、そのまま病院を後にした。
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