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58.雨の日に来たもの9
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「遅い!」
帰ると蒼が仁王立ちで待っていた。
「悪い」
「どこほっつき歩いてたんだよ?心配しちゃったじゃん」
「そんなに怒るなよ。ちょっと病院に行く時間が遅くなっちゃって。今の時間になったんだ。これで勘弁」
おれは今日、購入した哺乳瓶一式を差し出す。
「え!気が利くね。圭」
「おれだってけだもが可愛くなってしまったからな」
「は!?けだも??」
そうだった。
蒼に相談もなしに名前決めたんだっけ。
「そうそう。けだもって名前にしたから」
「はっ!??けだもって!何!??」
「いや。毛玉みたいだからさ」
「だからってけだもはないでしょう?けだもは!」
蒼はぷりぷり怒っている。
だって。
仕方ないじゃん。
「ごめん。もうこれだから」
おれが財布から病院の診察券を出すと、さすがに蒼は呆れていた。
診察券にはちゃんと『関口けだも』って書いてあるんだから。
「しかもずるい!関口になってる~!」
「熊谷がよかったのか?」
「それはそうじゃん!」
蒼はいじけてしまったのか。
もこもこ部屋の中のにおいをかいでいるけだもを抱っこする。
「ひどいおじさんだよね~。けだも」
「おい。蒼もけだもになってるぞ」
「だって、もうつけたんでしょう?仕方ないじゃん。もうこの子はけだもになっちゃたんだから」
そういう言い草をされると困る。
おれが悪者みたいじゃないか。
全く失礼しちゃうんだから。
「あれ?リボン!可愛い!これ可愛い!」
だろうが。
おれだってダテに今日一日、けだもの面倒をみていたわけではないのだ。
蒼も少しは見直したのか?
おれをみてにっこり笑った。
「よし!許す。ご飯にしよう!」
「そうだな」
「それから。けだものトイレの準備をしないとだね。しつけもしないと」
「そうだな。忘れてた」
トイレね。
そういえば、ネットで見たけど、そろそろ自分でするようになるそうだ。
そうなると粗相したりするんだろうな。
早めにトイレはしつけないと。
「トイレか。そうだ。けだものベッドも買ってあげよう。まだ寒いからな。それから、外が眺められるようになんか高い台がほしいんじゃないのか?」
蒼の運んでくる料理を見ながら考えを巡らせる。
「圭って案外、過保護だね。まだ上れないよ」
「そうか?」
「そうだよ。そうそう。おれに対してもそうだ」
「……そっかな」
「そうだって」
蒼は苦笑しておれを見た。
「圭は優しいよね。人がこうしたら安心して暮らせるんじゃないかって配慮してくれるんだもん」
「そっかな」
自分ではそうは思わないけど。
ただ。
蒼が。
けだもが。
安心して、快適に生活していけたら。
おれはそれだけで幸せなだけなんだけど。
「じゃあ明日、おれ日勤だし。今日みたいに早く帰ってくるから買いに行こうよ」
「そうだな。けだもはどうする?」
「けだもは留守番?それとも連れて行ってみる?」
「そうだな。連れて行くか。こいつ、車が気に入ったみたいだし」
「本当?」
「そうなんだって」
それから。
おれは今日のけだもの様子を蒼に全部話した。
それに育て方も。
蒼は「よく調べたね~」と感心していた。
これからはおれがミルク当番になりそうな予感。
だって蒼は仕事だから夜中に起きるのは大変だ。
なんだか子どもを抱えた夫婦みたいで笑ってしまう。
それに、けだもの話をしていると時間が経つのを忘れてしまう。
これからは話のネタに困ることはなさそうだ。
おれたちが話しをして盛り上がっている間にも、けだもは食事を済ませてベッドに上がって毛繕いをしていた。
昼間よりも上手になった毛繕い。
猫は成長が早いのだろうな。
そう思う。
けだも。
真っ黒な子猫。
けだもが来て、ちょっぴりおれたちの生活は変わろうとしていた。
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