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59.春の受難4
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水野谷が姿を現したのは昼食後のことだった。
午後の仕事に取り掛かろうとしていた職員たちは緊張する。
相変わらずミーハーの尾形が外まで出て行って様子を見ている。
それを見ていると、自分がやってきたときもこんな感じだったのだろうと言うことが容易に想像できた。
「きたよ!きた!若い兄ちゃんだよ」
慌てて戻ってきた尾形の声に一同は顔を見合わせた。
「新卒じゃないんでしょう?」
「補充要員だから、おれはてっきり異動だと思ったんだが」
氏家も首を傾げる。
その間に、水野谷と新しい仲間が姿を現した。
茶色のスーツにピンクのネクタイ。
髪型は茶髪で少し外に跳ねさせていてお洒落な感じがした。
いまどきのギャル男みたいな奴だ。
「お待ちかねだったようだな。尾形」
事務室に入ってくるなり、水野谷は厭味を言う。
彼が偵察していたことを知っていたようだ。
高田は苦笑する。
「だから止めとけって言ったのに」
「だって……」
そんなやり取りを流して、水野谷は新しい仲間を紹介した。
「静かに!え~……、今日からここ、星音堂に新しく配属になった三浦光くんだ。彼は元々、高齢福祉のほうをやってきてくれたが、今回の100周年記念に伴ってここの仲間になることになった。みんな、仲良くしてやってくれ」
三浦と言う男は満面の笑みで一同を見つめる。
「宜しくお願いします!三浦です!えっと、年は26!社会人としては皆さんに及びませんけどっ!頑張りまっす!」
えへへと笑顔を見せられても困る。
軽い感じのノリに星野たちもぽかんとしていた。
「カチョさん!おれを指導してくれる人ってどの人っすか?」
きょろきょろして嬉しそうにしている男。
さすがに水野谷の顔も引きつっていた。
「窓辺にいる彼だ」
水野谷に指名されて、蒼はため息を吐く。
前途多難。
そんな感じがしたから。
三浦は身軽で蒼の元にかけてくる。
「わ~!可愛い!可愛いっすね!」
「へ?」
「こう、ちまっとしていて……ぬいぐるみみたい!」
そんなことを言われたのは初めてのこと。
しかも初対面だし、年下だし。
なんだかすごく失礼な感じがしてむ~っとしてしまう。
「おれは熊谷蒼デス!キミの教育係デス!宜しくお願いしマス!」
語尾がおかしい。
星野は蒼が心底怒っていることが手に取るように分かり苦笑してしまう。
しかし、相手は全く気付いていない。
嬉しそうに蒼の手を取りブンブン縦に振る。
「わ~!蒼ちゃんですね!宜しくお願いします♪おれ、ラッキーかも!こんな優しそうな人が教育係になってくれるなんて♪他の人じゃなくて良かった~!」
他の人じゃなくて??
一瞬、事務室内が静まり返る。
さすがの氏家も失礼なことを言う若造だと思っているらしい。
「えっと~、おれの席どこっすか?」
きょろきょろしてあちこち物色する三浦。
彼の姿に事務室内は異様な雰囲気に包まれていた。
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