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59.春の受難8
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「課長!おれのことを担当から外してください!!」
事務室に響く蒼の声に、事務室内の残った職員は全員、顔を上げていた。
水野谷もお茶を飲む手を止めて蒼を見上げる。
「は?」
「だから!おれ、向いてないんです!自信がありません!担当を外してください!!」
両手を付いて真剣に見つめられても弱ってしまう。
水野谷はきょろきょろした。
「えっと。担当って、あの三浦の?」
「それ以外になにがあるって言うんですか!」
半分怒ってしまっている蒼は手が付けられない。
困っている課長に助け舟……とばかりに氏家が口を挟む。
「蒼、まだ数時間だろう?なんだ?急に」
「星野さんと同じことを言わないでください」
ばっさり切り捨てられる。
さすがの氏家も肩をすくめた。
「無理なんです!おれでは……」
蒼が必死に訴えていると、そこに会議室を片付けてきた吉田と三浦がやってきた。
「あ、カチョさん!おれも、おれも。おれも吉田さんがいいなあ~って♪蒼ちゃんもおれのことなんだか嫌みたいだし。ここは円満に担当交代って言うのがいいんじゃないっすか?」
うふふと笑う三浦。
指名された吉田は手を横に振る。
「お、おれも無理」
「え~!いいじゃないっすか!吉田さん~」
妙に近づいてくる三浦は苦手だ。
吉田は後ろに下がった。
そんな様子を見ていた蒼は水野谷に詰め寄る。
「ほら!ほら!課長。あいつだっておれじゃなくて吉田さんがいいって言っているじゃないですか!さっさと担当を替えたほうがいいんです!」
事務所内を見渡してため息しか出てこない。
後からやってきた星野も苦笑している。
水野谷は諦めて席を立ち、蒼と三浦の間に立つ。
「だめだ。なにをわがまま言っている。これは課長のおれが決めたことなのだからな。お前たちに意見される覚えはない」
久しぶりに課長らしい態度。
一瞬、事務室内は静まり返る。
「わがままばかり言うな。おれの言うことが利けないのだったら辞表を出してもらっても構わない。三浦の担当は蒼だ。これは決定事項だ。二人でなんとかするように」
印籠を渡された。
そんな感じだろうか?
蒼も三浦もしょんぼりして立っている。
「ささ!定時だ。三浦はもう帰れ。今週は定時で帰ってもらうけど、来週からは遅番もあるからな。ゆっくり休むように!」
水野谷は手を振って彼を帰宅させる。
それから蒼も。
「お前もだ。今日は日勤だろう?少し頭を冷やせ。新人に目くじら立ててどうする?今日はゆっくり休んで明日に備えなさい」
「課長……」
蒼は半分泣きそうだ。
そんな捨て猫みたいな顔をされても困る。
一瞬、可哀相だと思ったものの、心を鬼にする。
「蒼、おれはお前が適任だと思っている。順番なんかじゃないんだ。いいな?良く考えて対処するんだ」
「……」
荷物をまとめてとぼとぼ出て行く蒼。
職員たちはじっと彼を見送った。
「大丈夫なのか?あれ……」
尾形の言葉に星野も苦笑いだ。
「ダメだろう。あれじゃ」
「本当に蒼は手が焼けるんだから」
吉田も大きくため息を吐いた。
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