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59.春の受難12
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「お前に好かれなくても間に合ってます!」
「なんだ~。がっかり」
「三浦!口ばっかり動かさないで手動かすの!」
「きゃ~!恐いわあ♪」
うふふと乙女なしぐさを取って見せる。
おちゃらけられると怒った甲斐もない。
ぶ~っとふくれていると吉田が顔を出した。
「あれ~。二人で来てたんだ」
「あ!吉田さ~ん!蒼ちゃんがおれを苛めるっす!」
「苛めてないっつ~の」
「ほら~!恐い顔です~」
昨日の出来事もあったから、吉田は心配そうに蒼のことを見ていたけど、彼はもう吹っ切れているらしい。
自分よりも長身の三浦の首根っこを掴んで拉致する。
「ほら!ここが終わったら鳥小屋の餌補充だって」
「鳥小屋~!?なんっすか!?それ」
わ~!と嵐が去っていくように二人は中庭に出て行く。
なにを話しているの分からないけど、窓越しに見える二人。
蒼はがみがみ怒っているみたい。
その前でふざけた態度を取り続ける三浦。
「案外、合ってたりしてねえ。あの二人」
にこにこしている吉田。
「教育係って、本当にいつまでたっても解放されないんだから……」
吉田にとったら蒼は可愛い教え子みたいなものだ。
昨日からはらはらしていた。
本当に蒼が一人前に教育係になれるのかどうか?
自分は親のような気持ちで見守っていたのだ。
会議室の様子がおかしいって言うことも星野から聞かされてお茶を持って行ってみた。
自分が途中で割って入ったのはいいことだったのかどうかは分からないけど、心配で仕方がなかったから。
「お前も一人前の教育係になったってことだな」
「あ、星野さ……」
聞き慣れた声にほっとして振り返ったが、星野と一緒に立っている男の姿に凍りついた。
「安齋さん……」
「そこで一緒になってさ。今日は100周年の打ち合わせが朝一であるんだそうだ。課長はまだだろう?」
「え、ええ」
眼鏡を軽く上げて不敵な笑みを浮かべる安齋。
「本当にここはのんびりしすぎていて困りますねえ。なんですか、あれは」
彼は中庭の騒動を見て軽く笑う。
「ああ、新しい奴が来てね」
星野も苦笑いだ。
だけど、彼も少しほっとしたみたい。
蒼と三浦がああしてじゃれているなら大丈夫だろう。
昨日みたいな切羽詰まった状況でなければ大丈夫なのだ。
吉田もため息だ。
餌の取り合いをしていた二人。
結局、蒼に軍配は上がったらしい。
ざまあみろ!と笑っている蒼の元から逃げ出してきた三浦は吉田に泣きつく。
「吉田さん~!蒼ちゃんに苛められた!蒼ちゃんのこと叱ってやってください~!」
勢いよくやってきた彼は吉田にぎゅ~っと抱きついた。
「はっ!?」
「わ~ん!」
泣き真似をしている三浦は必死だ。
しかし、すがられてしまっている吉田にとったら死活問題だ。
こういうときに限って安齋がその場に居合わせてしまっているのだから……。
一部始終を見ていた安齋。
眼鏡が光る。
「吉田……。後で少し……な」
無表情の彼に吉田は危機感を持つ。
「ひゃ!あ、あの~!そんなこと言わないで!見てれば分かるじゃないですか!助けてください!おれは被害者なんですからっ!」
「おいおい。安齋、助けてやれ」
「なんでおれが助けなければならないんです?星野さんお願いします」
「冷たい先輩だなあ」
「おれは無関係です」
背筋の凍るような違和感に気付いているのは吉田と星野、そして追いかけてきた蒼。
三浦は能天気なのか、鈍感なのか?
そんな空気にも気付かないで泣き真似を続けていた。
「先が思いやられる……」
蒼は心底、そう思った。
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