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60.おねだり5
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東京からこっちに到着したのは22時を回ったところだった。
もうおなかはペコペコだ。
途中でなにか食べようかとも思ったけど、最近は忙しくて蒼とちゃんと顔を合わせていないし。
彼の手料理で満たそうと考えた。
けだももいるだろうし。
早く帰らないと。
駅の近くに借りている駐車場から自分の車でアパートを目指す。
途中、ふとこぎれいな小さな一軒屋を見つけた。
真っ白い壁。
あまり大きくもない。
ちゃんと庭も着いている。
その家の窓には『売家』と書いてある。
ふと車を止めてみた。
普通の家族だったら狭いだろうけど、自分と蒼とけだもだったらちょうどいい広さ。
中途半端な広さだからなかなか売れないのかも知れない。
そうだ。
明日は休みだし。
蒼を連れて来てみよう。
そう思った。
引っ越そう、引っ越そうと思ってもいい物件もないし、そんな余裕もなかった。
だけど、こうして自分も安定こそはしないものの、ちゃんと収入を得るようになったから生活を立て直していかないとな。
そう思ったのだ。
そんなことを考えながらうきうきしてアパートに帰る。
駐車場に車を納めて、見上げると、部屋は明かりが灯っていた。
まだ起きているみたいだ。
よかった。
階段を駆け上がり、玄関を豪快に開く。
「ただいま!蒼~」
……。
静かだ。
いつもだったらにこにこ笑顔で迎えてくれるのに。
お風呂?
いや、電気は薄暗い。
圭が思案していると、奥で眠っていたのか。
けだもが伸びをしながら眠い目をしょぼしょぼさせて駆け寄ってくる。
「ニャン」
「けだも~。蒼は?」
「ニュ~」
けだもを抱きかかえ、室内に入る。
「蒼?」
荷物を置いて、キッチンを抜け、室内に入った瞬間。
ふと左の視界に紺色のものが入ってきた。
ビックリして振り返る。
蒼がいた。
「蒼!?ってか!なに?その格好??」
圭はビックリして唖然としている。
蒼はそこにいた。
恥ずかしそうに俯いている。
今日、星野から借りた紺色の制服。
白襟のワンピース。
その上からピンクのエプロン。
顔を真っ赤にしている。
「蒼?」
「お、お……おかえりなさい。あ、あなた……」
もう泣きそうだ。
なんでこんなことしなくちゃいけないのか?
圭に変な奴と思われるに違いない。
だけど、彼は何度か瞬きをしてから苦笑する。
「ただいま。蒼」
「……っ」
緊張していた。
圭が帰ってくる直前まで、ず~っと制服の前でいったり来たりしていた。
だけど、ちょっぴり着てみることにしたのだ。
鏡の前で大きくため息を吐いていると彼が帰って来た音がして……。
どうしようもなくて決行するって決めた。
でもいざとなると恥ずかしくて死にそうだった。
おねだり。
おねだりの方法を知らない子は途方にくれるばかり。
圭の笑顔を見たら、なんだかほっとして床にへたり込んでしまった。
「蒼!?」
圭も慌てて彼の前にしゃがむ。
「どうしたの?こんな格好して」
「……あ、あの」
「うん?」
もうどうにでもなれだ。
蒼は今日、みんなから託されたものを全部彼の目の前に出す。
そして頭を下げた。
「こ、これ!お願いします!!」
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