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61.関口家騒動2
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「天才って言わないし。秀才だろ、秀才」
ぼそっと呟いて、タイトルの下に載っている自分と父親の写真を眺める。
こういう日が来るなんて思っても見なかった。
期待?
いや。
不安が大きい。
あんな変人だけど、彼の音楽に対する想いはよく分かっているつもりだ。
まっすぐに向き合っている父親。
自分なりに頑張ってきたけど、直接対峙して大丈夫なのだろうか?
なにからなにまで見透かされそうで恐いのだ。
圭にとったら、一番身近で、一番尊敬している音楽家だ。
口答えをして反発したりしていたけど、自分にとったら偉大な人なのだ。
その人との競演。
早すぎる。
そう思った。
もう少し自分の準備をさせてもらいたい。
だけど世間は放っておかなかったようだ。
早々と上がった企画。
父親はあんな感じなので軽く考えているのだろうか?
自分の息子なのだから、もう少し慎重に考えてもらいたいものだ。
いつもそう。
なんでも気楽に考えていて、友達みたいに扱われてきた。
彼が親として自分になにかしてくれたことがあっただろうか?
圭からしたら親の愛情はもらっていないようなものである。
気楽な友人関係親子だったから。
「どうせ本気じゃないんだろう」
「え?」
いろいろなことを考え、思わず言葉が出る。
「あいつだよ。どうせ、おれのことを呼びつけておいて、打ち合わせになんかこないって」
「そんなことは……。今回はマエストロの事務所でもずいぶん熱を入れていると言う情報が入っていますよ?」
「嘘だって。おれのことをおびき寄せる手だよ。あいつがおれなんかと競演したいと思っているなんて到底思えない」
「圭くん……」
複雑だった。
指名してもらえた嬉しさ。
そんなことがある訳がないと言う疑い。
そして、偉大な音楽家への畏怖。
瞳を閉じる。
なんだか眠くなってきた。
夜の不眠が祟っているらしい。
椅子にもたれて長く息を吐いた。
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