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61.関口家騒動9
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とりあえず、どうしたらいいものか思案しながらも彼女を自宅に入れる。
薄着の彼女。
こんな格好だと田舎では目立つだろうな……。
バスタオルを彼女の肩にかけ、室内に座らせる。
春の雨は冷たい。
濡れてしまっている彼女を温めようとお湯を沸かした。
やかんを見つめながら蒼は思考を巡らせた。
どうして彼女が?
圭が言うトラブルとなにか関係があるのだろうか?
静かに座り込んでいる彼女をちらっと見る。
彼女の膝の辺りをかぎまわっていたけだもはもぞもぞしている。
猫は嫌いかな?
そう思ったけど、人差し指を出してけだもの鼻の辺りを撫でている朱里。
猫の扱いには慣れている様子だった。
コーヒーをいれ、室内に運ぶ。
「猫、好きなんだ」
蒼の声に彼女は顔を上げる。
「猫は好き。嘘つかないから」
トゲのある言葉。
瞬きをしてから彼女の前にコーヒーをおく。
「圭はいないんだけど?今日はどうして……」
けだもを撫でながら朱里は俯く。
「今日はあんたに逢いにきたの」
「え?おれ?」
「そう」
彼女は顔を上げて蒼を見る。
「あんたに聞きたいことがあったから」
聞きたいことって。
それだけのためにわざわざ?
東京からやってきたところなのだろう。
蒼はただ黙ってじっとしている。
すると彼女が口を開いた。
「あんたさ。前に逢ったときに言ったよね?不倫はいけないって」
もう半年以上前のことだ。
蒼が圭の自宅に始めてお邪魔したときのこと。
「言ったけど……」
「なんでいけないの?」
「へ!?」
口をパクパクさせる。
「なんでって……」
朱里はむ~っとした顔をして続ける。
「みんな言うの。不倫はいけないって。だけど、どうしていけないのよ?好きな人と一緒にいたいって言う思いはみんな一緒じゃない」
それはそうだ。
「好きになる人って選べないと思うの。相手に奥さんがいたとしても。あたしはその人が好きだから。だから不倫って言われてもいいと思ってる。なのに、みんなはいけないことだって。一々うるさいんだよ。おやじたちは」
おやじたち?
圭一郎のことか?
関口家では圭一郎のことをまともに「お父さん」と呼ぶ子どもはいない。
圭は「あんた」と呼ぶし。
朱里は「おやじ」と呼ぶ。
なんだか不憫な気がしてならなかった。
「おやじたちは頭ごなしって感じがしたから飛び出してきた。だけど、あんたは違う気がしたから。家を飛び出してふとあんたのことを思い出した。なんであの時、あんな顔であんなことを言ったのかなって……」
それでここまで来たと言うことなのか?
さすが圭の妹である。
行動力は抜群だ。
蒼は座りなおす。
彼女の問いはまっすぐだ。
捻じ曲げて答えるのは失礼だと思った。
「おれが不倫をいけないって言った理由はね」
「なに?」
「おれがその不倫って言う捩れた関係の中で生まれたからだよ」
朱里は目を見開く。
「え?」
「おれの母さんはキミと同じ。妻子ある人を好きになったんだ。ひたむきに愛していたらしい。その結果、おれが生まれたって訳」
「で?」
「でって。それだけだよ」
朱里は不思議そうな顔をした。
「それだけって。その後はどうしたのよ?」
蒼は苦笑する。
「どうもしないよ。おれの父さんは、母さんにありきたりの幻想を持たせてくれたんだろうね。だけど、そこまでの話。結局、本妻さんとは別れるわけもなく。母さんはおれを一人で育ててくれた。今は結婚をして幸せになっているけどね」
彼女は首を横に振る。
「嘘よ。その男がひどいだけよ。あたしの人はちゃんと将来を考えてくれて」
「それは男なら誰でも言うことらしいよ?」
残酷な話かも知れないけど、知るなら早いほうがいいだれろう。
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