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62.棲み家1
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「部屋数は少ないですが、一つ一つが広い造りになっています」
目の前に出された見取り図を見て圭は頷く。
「南向きのいい物件ですよ?」
説明をしてくれている不動産業者の男は愛想のいい笑いを浮かべている。
営業用の顔ってところか?
なんとなく不自然なそれ。
なにかあるのかと思ってしまう。
しかし、この物件にいわくがあるわけではないらしい。
彼はお茶を勧めながら額に浮いた汗を拭う。
「いやあ。本当によかったですよ。この規模のお家だとなかなか売れなくて。最近は新築が主流で中古物件をお求めになる方がほとんどいないんですよ」
これは本音だろう。
確かに。
家を手に入れるのなら、新しいものがいいに決まっている。
町を歩いても、新築の家が多い。
その反面、古い空き家も多い。
核家族の流れなのだろう。
結婚をし、立派な家を建てても子どもたちは巣立っていってしまうものだ。
取り残された高齢者たちは死に絶え、そして家は空き家になる。
しかし、そういった家は築年数が経過してしまっているので買い手が見付からないのだ。
今回の家のその手のものだったらしい。
数年前に持ち主が引っ越していったらしかった。
「以前はおばあちゃんが一人暮らしをしていたんですけど、年で息子さんのお家に引き取られていったらしいんです。それで売家になったんですが……」
蒼は書類に目を通す。
平屋で南向き。
ちゃんと庭も着いている。
昔ながらの造りなのでシステムキッチンなどではない。
キッチンと居間は廊下を挟んで別になっている。
トイレにバス。
居間のほかに部屋が三つある。
一つは寝室か。
後はどう扱おう?
ちらっと隣にいる圭を見つめる。
彼は瞳を輝かせていた。
なんか企んでいる証拠である。
「とにかく、見てみますか?」
男の声に圭は間を入れずに頷く。
「是非!」
もうすでに8割がたは心が決まっているようだ。
蒼からしたら得にこだわりはないし。
圭がいいのならそれもいいかと思う。
もうあのアパートでは限界だし。
しかし、売家と言うのが気にかかる。
中古の売家と言っても安い買い物ではない。
蒼にとったら大きな買い物をしたことがないから、はらはらしてしまうことだった。
「蒼?」
もこもこしていると、圭に声をかけられる。
「行くよ」
顔を上げると、すでに不動産会社職員は姿が見当たらない。
「ねえ、本当に大丈夫かな?」
「なにが?」
「なにがって。そんなに安いものでもないし。もう少し慎重にしたほうがいいのかなって……」
「慎重にしたってしなくたって物件は変らないだろう?まずは見てみようよ。それから決めたっていいじゃない」
それはそうだけど。
なんだか心配だった。
「車の準備が出来ましたよ。どうぞ」
もたもたしていたら男が顔を出した。
名前は佐野と言うらしかった。
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