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63.引越し1
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目が覚めてがっくりする。
この本の多さはなんなのだろう。
辺りを見渡す。
本、本、本……。
本だらけ。
本屋かって言うくらい本がある。
昨日から荷造りしても荷造りしても本が出てくるのだ。
この部屋の床、よく抜けなかったと思う。
本の中に埋まって眠っている蒼。
幸せそうだ。
昨日、この本のせいで喧嘩になったのだ。
二人掛りで半日以上、荷造りをしたが、結局片付かなかった。
おなかも空いたし、横にもなれないしで圭は機嫌が悪くなってしまった。
そして、いつもの喧嘩。
蒼はへそを曲げて「いいよ!一人でやれるもん!」って怒ってしまった。
それをみて「勝手にしろ」ってふて寝をした圭。
朝になってしまったらしい。
夜中じゅうやっていたのだろうか?
蒼は本に囲まれていた。
「全く」
自分は音楽バカだが、この男は本バカだ。
狭いスペースに変な格好で寝ていたせいで身体のあちこちが痛む。
背伸びをして立ち上がる。
本の山を掻き分けてキッチンに向かう。
「にょ~!」
圭の物音に気が付いたのか?
けだもがくっついてきた。
朝食の時間だと思ったのだろう。
圭はやっとの思いで歩いていると言うのに、けだもは身軽だ。
ひょいっと本の上を飛び越えてあっという間に追いつく。
「お前はすごいな」
山積みの本のてっぺんに誇らしげに座っているけだも。
随分身体も大きくなったものだ。
「お前も狭かったな。ここじゃ」
そして本たちも。
ぎゅうぎゅう詰めにならなくて済むのだ。
本たちも。
けだもも。
自分たちも。
みんなにとっていいことだろう。
「今日でお別れだな。こことも」
圭がここに来て1年ちょっと。
短い時間だったけど、ここには思い出がたくさんだ。
けだもの食事を用意してぼんやりしているとチャイムが鳴った。
「はいはい」
食事がお預けになると困る!とばかりにけだもは鳴く。
「分かっているって」
圭はお皿を平らなところに置き、けだもが口を付けるのを確認してから玄関を開ける。
そこには宮内と桃がいた。
「ちょっと!引越し手伝えって言うから来たのに。なに、この散らかりは!」
桃は鼻を摘んで手を振る。
「いやあ。荷造りだけはしようと思っていたんだけど、どうにもこうにも行かなくなっちゃってさ」
「笑っている場合かよ!」
宮内の呆れ顔だ。
「とにかく入れよ」
二人を招きいれるものの、どうにも居場所もなにもあったものではない。
「これをどうするって?」
「午前中にレンタカーを借りてくるから、それに積み込んで運ぶ」
「それを4人でやるの?」
圭でも驚くくらいの荷物だ。
桃たちの驚きは頷ける。
「ううん。他に何人か来る」
こういうときのための高塚だ。
朝一で東京を出て、その足でトラックをレンタルしてくると言っていた。
それから、吉田と星野と尾形。
そして、桜と野木も来てくれると言っていた。
柴田も来るなんて言い張っていたけど、なにせご老体だ。
来ても酒を飲んで終わりだろう。
余計に邪魔だから断った。
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