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63.引越し2
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「ならいいけど……って!なんでこの子は寝ちゃってるわけ!?」
桃は本の真ん中で寝息を立てている蒼を突っつく。
「本の中の眠り姫だな」
宮内も苦笑していた。
「う~ん」
「う~んじゃないっつーの!こら、起きろ!今日は誰のために早起きしてきてると思っているのよ!!」
桃に頬をつねられてしぶしぶ起きだす蒼。
「痛いよ。桃さん」
「のんきな子ねえ」
ひりひりする頬を擦りながら蒼は辺りを見渡す。
「ごめん。寝ちゃった」
「全く。なによ、この本だらけの部屋は」
「ごめん。おれの……」
ちらっと圭を見る。
昨日も散々、この本の件で喧嘩したから。
申し訳ないと思っているのだろう。
怒っても仕方ない。
圭は苦笑する。
「もういいんだよ。蒼。昨日は悪かった。イライラして」
目の下にクマを作っている蒼の頭を撫でる。
「一人でやらせて悪かったな」
「ううん。おれのだし……」
この引越しのことについて、蒼は弱腰だ。
そのことにうすうすは感じているけど、なんとかなるだろうと思っている。
蒼は後ろ向きなところも多い。
環境の変化を好まないのだ。
それに、このアパートとの付き合いも長い。
積極的にならないのも頷ける。
だけど、この引越しは圭にとっても蒼にとってもいいものに違いない。
圭はそう思っている。
なにせ、現状では楽器の練習場所の確保すらままならないのだ。
蒼だって窮屈な部屋ではゆっくり読書も出来ないだろうし。
けだもだって走り回ってもたかがしれている。
みんなにとって最良の策だと考えるしかない。
そうでもしなくちゃ、ぐずもぐしている蒼を引越しに引っ張り出す自分の行動が正当化されないのだから。
「ほら、いちゃついてないで。さっさと荷物を下に運びましょう」
いつの間にか桃が仕切り役になっている。
けだもが外にでてしまわないように紐を付ける。
そして、圭と宮内に指示を出して、荷造りが済んでいる荷物を階下の駐車場に運び出す指示を出した。
その間にまだ残っている荷造りを蒼と桃とで分担する。
そうこうしている間に星野が吉田と尾形を引き連れてやってきた。
「おっす~……なんつー荷物だ」
星野は苦笑する。
「職場でも本が多いけど、自宅でも多いな」
蒼は慌てて顔を出す。
「すみません。せっかくのお休みなのに」
「いいってこと。夕飯で許してやる」
吉田も嬉しそうだ。
その後ろにはおちびの油井もいる。
「あれ!油井くんまで」
「あ、すみません。夕飯食べさせてもらえるって……」
星野らしい説明だ。
食事だけだと思ったら大間違い。
その前には大変な作業が待っているのだ。
星野はそ知らぬふりで笑う。
「油井、お前も手伝え」
「うん!」
「一人でも多いほうが早く済むからな」
ぼそっと呟いた星野。
そんなことを言いつつも本当のところは一緒にいる理由が欲しいだけだろう。
来る途中に尾形にもバレたのか、彼はにやにやして星野と油井をみている。
人手が増えると知恵も集まる。
バケツリレーのように荷物を流れ作業で送ればスピードも上がる。
「おはようございます!」
その内、高塚がトラックを運転してやってくる。
マネージャーは大変だ。
そして遅れて野木と桜も顔を出す。
人が集まるにつれてけだもも大騒ぎ。
落ち着かないのか鳴いてうろうろしていた。
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