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63.引越し4
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引越しがあらかた片付いたのは夕方になっていた。
途中、柴田に言いつけられたと佐伯、横田、雪田がやってきた。
人でもどんどん増えたせいで、最初は荷物を運び入れるだけの予定が、収納まで手伝ってくれた。
蒼の膨大な本もきちんと書斎に納まる。
自分の本なのに、なんだか違う場所に並んでいると居心地が悪い気がした。
けだもは初めてのところで、あちこちの匂いをかぎ回っていたが、蒼の部屋から持ってきた家具などの匂いで安心したのか、すぐに走り回って喜んでいた。
「蒼~。こっち来て」
台所の整理を油井と一緒に行っていると、圭の声が響く。
慌てて居間にかけていくと、手伝いに来てくれていた人たちが集まっていた。
「だいたい片付いたし。みんなに夕飯をご馳走して解散にしようかと思うんだけど」
「うん」
前から手配していた夕飯。
自分たちで賄うなんて無理な話だ。
オードブルとかお寿司とか、頼んでおいたのだ。
星野たちもそれが目当てだったみたいだし。
食事が始まるとお酒も入って賑やかになる。
いつもは顔を合わせることがないメンバーが揃っているのだ。
おかしなことになっている。
星野は佐伯たちを捕まえて、知り合いリストに加える気なのだろう。
お得意の面倒見のよさを発揮して、信頼を得ている様子だ。
桃と桜は意気投合してしまっているのか、桃を店に誘っている。
圭が忙しくて演奏者が不在なのだろう。
桜だって一流なのだから演奏すればいいのに。
桃を引きずりこもうと言う魂胆なのだろう。
そして宮内も一緒に。
これはついでっぽいけど。
キッチンと居間とを行き来して、ある程度全員が食事を始めるとほっとする。
キッチンと居間。
遠いと感じる。
今まではこじんまりしていたから。
「油井君も食べておいで。今日は朝からで疲れたでしょう?」
ふと自分の横でお手伝いをしてくれていた油井に気付く。
彼はずっと蒼の補佐みたいにしてお手伝いをしてくれていたから。
「でも、蒼さんも……」
「いいの、いいの。みんなが帰った後でも食べられるし」
でも……と油井はもじもじしている。
「おれ、大人ばっかりだし。その」
そっか。
入りにくいかな?
蒼は苦笑して、キッチンに置いたテーブルに油井を座らせる。
「よし。じゃあここで食べようか!」
「は、はい」
どんちゃん騒ぎの様子を呈している居間。
そっちは圭に任せておけばいいだろう。
こっちはこっち。
油井とけだもと蒼と。
三人でのんきに夕食を摂る。
「油井君は今年卒業だね~」
「そうなんですよね」
「どうするの?これから」
う~ん……と言葉を濁らせて、彼は笑う。
「なんだかはっきりしなくて」
「?」
「なにをしたいのか、イマイチ分からないんです。大学に行って本当に自分のしたいことが見付かるのかなって」
「そっか~……」
「蒼さんはどうして星音堂に入ったんですか?」
どうしてって聞かれても。
自分で選んでここに来たわけではないから。
市役所を希望して、配属された場所が星音堂だった。
それだけの話だ。
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