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64.日々勉強3
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リハ室にいると時間がまったく分からない。
今は昼なのか?
夜なのか?
時計の針を見てもそれが夜中なのか日中なのかが分からないのだ。
小編成の管弦楽の中心におかれたチェンバロ。
そこに座り、指示を出す圭一郎。
圭はコンマス席に座り演奏をこなしていった。
ヴィヴァルディの四季。
名曲中の名曲。
耳にしたことはないと言うほど、有名な曲でもある。
曲は四部に分かれ、その中が三楽章の構成になっている。
どの曲もその季節を的確に表現しているため、聴いている人たちは各々の脳裏のその光景を浮かべることであろう。
「圭、そこはもう少しダイナミックな感じでできないか?」
練習の合間の打ち合わせ。
プライベートな話題では素直に聞けないものだが、音楽づくりとなれば話は別だ。
世界的なマエストロから少しでも学ぼうと必死に耳を傾ける。
「ダイナミックって言われても、いろいろなものがあるじゃないか。もっと細かく説明してくれない?」
「そうだな。こう、わ~って感じ!」
両手を広げて圭一郎は大声を上げる。
「訳わかんないし!」
「そういうな。おれはこうしか表現できないんだから」
「う~ん……」
圭は考え込む。
「そうだな~」
それでも理解できない様子の圭を見て、圭一郎は頷く。
「蒼と久しぶりに再開して、『わ~!嬉しい!この世界の中でおれ以上の幸せものはいないぞ!』って叫びたいくらいの喜びに満ちた感じ」
「たとえが微妙なんだけど」
「的確だと思うがな」
彼は苦笑する。
圭一郎は往年の指揮者タイプだ。
何事も感覚で指示を出してくる。
緻密に「この音を強く」とか、「ここの記号通りに」とか、そういう指示はない。
さっきから「わ~」とか「ひょろひょろで」とか「ば~ん!」とか、擬音語のオンパレード。
なにを言いたいのか、息子でも理解しがたいところがある。
「父さんはショルとは対照的なんだね」
ふと思ったことが口から出る。
駆け出しの彼と比較したら怒るだろうか?
そう思い様子を伺うが、彼は身を乗り出して興味津々だ。
「なにが?どういうところが対照的なんだ?」
「いや」
「言いかけたんだ。言ってみろ」
圭一郎にしてみたら、息子と膝を突き合わせて話をするのは珍しいことだ。
嬉しいのだろう。
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