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64.日々勉強5
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「蒼?大丈夫?」
楽譜から視線を上げると、隣にいた黒田が手を振っていた。
「あ」
「大丈夫かよ?疲れているんじゃない?」
「ごめん」
「いいって。無理しないほうがいいぞ」
それはそうだが。
蒼が所属していた合唱団は演奏会を目の前に控えていた。
元々、演奏会の助っ人として入った蒼。
目的である演奏会をなんとか成功させなければならないのだ。
水野谷は口には出さないが、遅番を配慮してくれているようで、あまり練習を休まずにいられるのは救いだった。
楽譜も読めないし、音楽とはなんなのかも分からない蒼。
予想以上に苦戦していた。
だけど、歌うことは好きだし。
それだけが救いで続けている最中である。
しかし、ここのところ引越しやらなにやらで精神的に疲れているらしい。
ぼんやりしていることが多い。
練習にも身が入らないのが本音だ。
「でも、もう少しだしね。頑張る」
笑顔を作り、黒田を見ると、側にいたソプラノパートリーダーの島内が苦笑する。
「他の男性陣も見習ってもらいたいもんね」
「へ?」
「みんな本番前になってきて疲れているのは一緒なんだから。熊谷くんみたいに笑顔でやって欲しいって言っているのよ」
「そういうなよ~。若くないんだから。おれら」
ベースのパートリーダー金川は苦笑いだ。
「金川さんはベテランでよく頑張っているけどねえ」
「おれもそろそろ引退だな。熊谷に任せるか」
「え!おれベースなんて出来ないですよ」
「大丈夫だ。年とれば高い声なんて出なくなるんだからさ」
そういう問題か。
冗談で盛り上がる練習室。
そこに休憩を終えた横田が顔を出した。
「なんだ、なんだ。そんな元気があるなら、まだまだいけるな」
「勘弁してくださいよ~。先生」
金川の声に一同は湧く。
「お前は休憩中だけ妙に生き生きしているんだから。全く。若いものがマネをするんだからしっかりしてくれ」
「ちぇ~」
金川と横田のコンビは名物だ。
蒼は知らなかった。
黒田と横田の関係しか見ていなかったから分からなかったけど。
やっぱり年が近いせいなのか?
横田は金川のことを随分頼りにしているようだ。
団のムードメーカーだし。
いいことだと思う。
「さて。無駄口はそのへんで。もう時間もないからな。さっさと練習しよう」
横田の言葉に一同は楽譜を開く。
蒼も慌てて見習った。
だけど、疲れもピークなのだろう。
楽譜のおたまじゃくしがかすんで見えた。
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