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65.親の心子知らず。子の心親知らず。3
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きららホール開館記念事業。
ホール内は満員御礼だった。
演奏は大盛況に終わった。
いつまでも鳴り止まない拍手喝采。
立ち上がり感激を身体いっぱいで表現してくれている客たち。
自分の隣で微笑みを浮かべている圭一郎を見て、ほっと軽く息を吐く。
ひねくれていた心は少し晴れている。
昨日、蒼に言われた言葉。
『親子で競演できるなんて素晴らしいね。圭の家だけじゃないの?いいな~。圭は。お父さんとそういう関わりが出来て』
また始まったと思っていた。
蒼はすぐそう言う。
父親と言うのは圭にとったら壁でしかない。
越えたいけど越えられない。
どうしようもない壁。
彼の前に出ると自分はちっぽけに感じるから。
あまり褒めて欲しくない。
分かっているから。
蒼の口から圭一郎への賞賛の言葉は聞きたくなかったのだ。
息子とこうしてステージで拍手を浴びるときが来るなんて思っても見なかった。
本当は望んでいたことなのに。
いつまでも底のほうでくすぶっていた圭。
彼もここまで来たのだ。
嬉しいことだ。
小林にちゃんと褒めないとダメだと言われたことを思い出す。
隣に立つ彼の横顔は父親としても誇らしく感じられた。
「やっとここまで来たんだな。圭」
「なんだよ?」
拍手を浴びながら、むっとした顔をする。
「そんな顔をするな。お客に失礼だろう」
「お前の存在自体が失礼だ」
「どうしてこんな減らず口の立つ子になっちゃったんだろうねえ」
圭一郎は苦笑してもう一度客席に礼をする。
そして、さっさとステージを降りた。
舞台袖に来た圭一郎は蝶ネクタイを緩める。
「ありがとうございました。先生」
すかさず寄ってきたのは澁谷。
この事業の責任者である。
「いいホールだね。これからたくさん活用させてもらいたいよ」
「ありがとうございます」
二人が話し込んでいると圭もやってくる。
「お世話になりました」
「いえいえ。こちらこそ。どうぞ、この後、開館記念式典が最上階で行われます。どうぞそちらにご出席ください」
「ありがとう」
圭一郎は大きく頷き息子を見る。
「さて。着替えをしてからだね」
「……」
澁谷は「用意がありますので。先に失礼します」と姿を消す。
楽団員たちもそろそろと控え室に向かっていた。
観客たちも帰途についているのだろう。
ざわざわと客席は騒がしかった。
「どうした?圭」
妙に静かな彼。
もう話もしたくないのだろうか?
圭一郎は首を傾げて彼を見る。
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