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68.置いてきぼり4
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好きな人の側にいる。
それはとても素敵なことだ。
一緒に同じものを見て、同じものを感じて。
一緒に感激して。
なにもかもを共有する。
それは本当に素敵なこと。
だけど、本当に可能なことなのだろうか?
自分はそんなことは夢物語だと言うことに気付いてしまったのだ。
気付いた後は最悪だった。
彼の考えていることが分からない。
彼の見ている世界が分からない。
自分の居場所なんてなくなってしまったのだ。
彼はすでに時の人だった。
素敵な演奏家で、世界中を飛び回っていたから。
自分はそんな彼の側でただ手を拱いているだけ。
早く彼と同じところに行きたい。
同じ舞台に立ちたい。
そう願っていても、二人の距離は縮まることがなかったのだ。
置いてかれた人間はどんなに寂しい思いをするのか、置いていった人間には知る由もない。
もう自分はその人の思考の一部にすら上がってこないことを知ったときの寂しさ。
信じていたからこそ、感じる裏切られ感。
傷付くのは嫌。
嫌われるのは嫌。
おいていかれるのは嫌。
もうそんな思いは嫌だった。
だから自分の身は自分で守らないと。
安易に人に幸せを与えておいて、捨てていく人間は許されない。
自分と同じ思いをする人がいなくなればいい。
そう思った。
華やかな控え室で彼女は思う。
自分が解き放ってあげたいのは彼なんかじゃない。
もう一人のあの人なんだって。
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