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70.長い夜1
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朝。
水野谷は駐車場に車を止めてから伸びをする。
これが日課。
長時間、寝ていたので少し伸ばさないと調子が出ない。
これも年寄りになった証拠か?
ぐ~っと両手を空に突き出して伸びる。
それから、右に左に傾けて脇腹のストレッチ。
「きく~」
筋肉が伸びている感覚が気持ちいい。
「は~!」
大きな声をあげ、それから肩を揉み解す。
彼は課長と言うこともあって、重役出勤気味だ。
駐車場にはすでに他の職員たちの車が並んでいる。
最後の特権だ。
誰か来るのかと思うと、恥ずかしくてこんなにのんびりストレッチが出来るはずがない。
自宅でやってこいよと思うが、それもままならないのが水野谷家なのだろう。
「ここがおれにとったら憩いの場だよな~」
一人でにやにやしていると、背後に気配を感じてビックリする。
左手を腰に当て、右手を大きく伸ばした不自然な姿勢のまま硬直する。
振り向くのが恐い。
誰だ。
こんな時間にうろついている輩は。
近所の人かも知れない。
それならば愛想よく挨拶をして切り抜けるまでだ。
水野谷は覚悟を決めて振り向く。
「あの……」
「おはようございます!」
上半身だけねじった体勢のまま、彼は再び固まった。
そこには蒼がいたから。
彼はぺこっと頭を下げたままそこにいた。
「お前」
「課長!本当に申し訳ありませんでしたっ!あの、おれ。む、無断欠勤……」
なんだか数日見ない間に蒼は更に小さくなってしまったように感じられた。
「蒼……」
「すみま、せん」
「お前」
水野谷はそのままの姿勢で笑う。
「どこほっつき歩いていた?まったく。土産くらい買ってきたんだろうな?」
「え……?」
「星野たちも楽しみにしてるぞ?お前の土産」
くるっと踵を返し、蒼の元に歩み寄る。
「バカだな。本当にお前は」
「か、課長……」
おろおろしてはいるものの、彼が自分の無断欠勤を別な理由にしてくれると言う意図はよく分かった。
だけど、蒼は首を横に振る。
「そんなことしないでください。課長」
「なんだ?」
「おれが悪いんですから。そんなことされたら、余計にここにはいられません」
「蒼」
蒼は水野谷の腕を掴む。
そしてそのまま頭を下げた。
「課長、お願いです。おれにちゃんときちんとけじめをつけさせてください」
ビックリした顔をしていた水野谷だけど、ふっと苦笑して蒼の頭をぽんぽんっと叩く。
「けじめならきちんと取らせてやる。だからこの件はおれに任せろ」
「課長?」
「おれは冷たい男でね。プライベートと仕事は分けてもらいたい性質なんだよね」
はっとして顔を上げると、彼はにこにこしていた。
「お前になにがあったのかなんておれには関係ないから聞く気もない。ただこれからの仕事をしっかりやってもらえればいいだけの話だからな」
「課長」
「ぐじぐじするな。蒼だってちゃんとした男だろう?もう大人なんだから。子どもじゃないんだから」
水野谷に引っ張られて蒼はぐしゅぐしゅしながら星音堂に連れて行かれた。
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