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70.長い夜3
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水野谷は知っているのだろうか?
蒼の身になにがあったのか?
そう言えば、今考えると、蒼が桜の店に行ったときに誰かと電話で話していたことを思い出す。
そうか。
桜は水野谷に事情を説明してくれていたのだろう。
だから彼は蒼に配慮してくれているのかも知れない。
仕事の押し付けもそうだった。
復帰したばかりで、忙しいのは酷だと星野は同情してくれていたけど、蒼にとったらそれはいいことだったのかも知れない。
忙しいと他のことに思い馳せる余裕もなくなるから。
無断欠勤と言う、社会人として恥ずかしいことをしてしまった罪悪感。
圭との間に出来てしまった亀裂に対する傷心。
全てを忘れるくらい、業務は膨大だった。
「どうして放置してたの?やることたくさんあるでしょう?」
三浦は「だって~」とごねる。
「蒼ちゃんが来てから一緒にやったほうが早いのかな~なんて。あ、これはやっておいたんすよ~?どう?どう?」
彼が差し出した書類に目を通しがっかりする。
必要物品の在庫確認の書類だが、まるでなっていない。
むしろやってもらわないほうがいいくらいの酷さだ。
蒼は書類をくしゃくしゃにして捨てる。
「あ!!酷いよ~!おれが頑張ってやったのに……」
「分かった!一緒にやろう!最初から一緒に。ね?」
「は、はい」
蒼は三浦を引っ張って倉庫に連れて行く。
それを見送った星野は爆笑だ。
「蒼のああいう姿が見られるなんて思いもよらなかったな」
「蒼も先輩ですからね」
吉田も同感。
「それに、戻ってきてよかったですよね。あいつ。あれで思いつめるタイプだから。本当のことを言うと辞めちゃうんじゃないかっておれは思ってました」
尾形の意見に「同感だ」と氏家たちも頷いた。
「それにしてもなにがあったのかね~」
「無断欠勤までって。家庭の事情ってヤツかな?」
「あいつ、案外根暗だからな」
本当は話したくて仕方がなかった話題。
みんなお互いがお互いを気遣って蒼は旅行に行ったのだろう、なんて冗談を語っていたが。
心配していたのだ。
星野も内心、ほっとしていた。
蒼から圭とのことで相談を受けていたから。
なにも力になって上げられなかった自分が不甲斐なく思えていたのだ。
「人の相談に乗るって言うのも楽じゃね~な」
ぼそっと呟いて、彼は頭を掻いた。
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