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70.長い夜4
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「パネル小が50枚。ある?」
バインダーの書類を見ながら倉庫でもぞもぞ物品を確認している三浦を見る。
「50枚ですか~、ちょっと待ってくださいよ。今数えているんですから」
「早くしないと日が暮れちゃうよ?」
「でも~、あ、ほら!蒼ちゃんが邪魔するから間違っちゃったじゃないっすか。最初からですよ~」
めんどくさい。
蒼は側にあった機材に腰を下ろしていたが、立ち上がり、そして三浦のところに行く。
「どれ、半分貸して」
「あ、」
「一人よりも二人でやったほうが早いよ」
バインダーを側の棚に置き、自分も床に腰を下ろしてパネルを数える。
「えっと」
こういう作業は懐かしい。
今までは吉田とやったものだ。
蒼もよく怒られた。
吉田に。
数えるのが遅いって。
でも吉田は教えてくれた。
一人じゃ遅くても手分けすれば早く終わる。
彼は親身になって蒼と一緒に仕事をこなしてくれた。
だから今度は自分の番。
一人ではできないことも二人なら。
二人?
ふと手が止まる。
そう。
二人だったらなんでも乗り越えられる。
今までそうしてきたではないか。
なのに。
どうして離れていくのだろう。
側にいたい気持ちは変わらないのに。
一緒にいられなくなっていく気がする。
圭と一緒にいるためにはなにもかも捨てなくちゃいけないときが来るのだろうか?
だったらどうなのだろう?
自分は。
それでも圭と一緒にいたいと願うのだろうか?
もしかしたら彼も同じなのかも知れない。
なにもかも犠牲にしてまで自分と一緒にいてくれるのだろうか?
そうした彼を自分は支えていけるのだろうか?
犠牲の上に成り立った自分たちの関係がうまくいくなんて到底思えないのだ。
きっと、お互いが罪悪感を抱えて後ろめたい気持ちでいっぱいになるに決まっているのだ。
分かっている。
それは分かっているんだけど。
どうしたらいいのか分からない。
一般的に起こりうるであろう状況を理解してもなお、自分は圭への思いを諦めることが出来ない。
未練がましい男だと呆れてしまう。
自分で飛び出しておいて、まだ圭のことで頭がいっぱいなのだ。
どうしたらいいのだろう。
迷う気持ちがぐるぐるして、なにがなんだか分からなくなってきた。
と。
不意に伸びてきた大きな手に掴まれて我に返る。
顔を上げると、三浦が蒼のことをじっと見ていた。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫って、なに……」
そこで自分の異変に気が付く。
手は震えているし、涙が出ていた。
「蒼ちゃん。具合悪いんですか?無理しないほうがいいっす。今日から復帰したばっかなんだし」
「ご、ごめん」
三浦の手をそっと離して、それから目元を拭う。
バカみたいだ。
「大丈夫。ごめん。ちょ、ちょっと思い出したことがあって。うん。よ、よし!数えちゃおう!」
笑顔を見せ、三浦を安心させようとする。
それで通じるとは思わないけど、彼は蒼の苦労を察してくれたのか。
「分かりました」と言いパネル数えに戻った。
忙しくするのだ。
もう余計なことを考えないように。
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