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70.長い夜7
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夏が近い。
梅雨なんかあるのかないのか分からないくらいにお天気の日が続いていた。
じりじり、じめじめする天候に、体力は奪われる。
星音堂事務室も例外ではなかった。
じっとりとした暑さに、職員たちは悲鳴を上げていた。
「あぢいい」
うちわで扇いでも不快な風しかやってこない。
「お願いです!神様!仏様!給料からの天引きで構いません!あと少しだけ、冷房を強くしてください!!」
吉田は手を合わせてなにもないところに向かって頭を下げている。
「頭がおかしくなったヤツがいるぞ~」
尾形の茶化しに一同は笑う。
「だって~。本当のことです。お願いですから、この不快な世界から救い出してくださいよ」
「課長に言え」
ここでの神様は水野谷である。
吉田は慌てて彼の机に駆け寄った。
しかし、そこには『不在』の表示。
「うう。課長のバカ。こんな緊急事態のときに不在なんて」
「仕方ね~よ。今年は行事も多くて本庁に行く機会が多いんだから」
「ぶ~」
大きくため息を吐く吉田。
そこに蒼がダンボールを抱えて入ってくる。
「蒼は働くね~」
「え?」
彼は応接セットにダンボールをおく。
「なんだ?それ」
「来週の打ち合わせ前に、過去のイベント記録も少し見ておこうかと思いまして」
「おいおい。そこまですることないよ。どうせ本庁の係は星音堂に精通している安齋さんなんだし」
吉田はそう言いつつ蒼の側に来る。
「でも。なにか聞かれて答えられないと困るし」
「蒼、あのねえ……」
そこまで言って、後ろからどつかれた。
「イテ!」
「あ、すみません。吉田さん、いたんっすか」
蒼に続いて入ってきた三浦もダンボールを抱えていた。
彼は吉田が見えなかったのか、そのまま突進してきて衝突してしまったようだ。
「おい!失礼だろう!」
「すみません」
彼も蒼と同様に荷物をテーブルに載せる。
「どれ。確認しようか」
「はい」
二人はソファに座ると、あちこち資料を取り出して目を通す。
吉田は諦めて自分の席に戻った。
「締め出されてつまらないんだろう~」
星野に茶化される。
「そんなんじゃありませんよ」
口を尖らせる。
「お前もいい加減、蒼離れをしろよ」
「だから、そんなんじゃないです」
吉田は言葉を続ける。
「だって、昨日もその前も。二人で11時くらいまで残っているみたいですよ?蒼もそうだけど、三浦も疲れきっちゃっているみたいじゃないですか?」
一同はそっと二人を見る。
確かに。
いつもはあっけらかんとしてお調子者の今時男の三浦だが、寝不足みたいだ。
目の下に隈が出来ている。
それにいつもみたいに髪型も決まらない。
その脇に座っている蒼もそうだ。
髪はハネ放題だし。
なんだかスーツ姿も様にならない。
二人とも疲れている。
「誰か止めてあげたほうがいいんじゃないですかね」
吉田の心配も分からないでもない。
だけど、星野は笑う。
「お前ね。あれが普通なんじゃねーの。星音堂がのんびりし過ぎなだけだって。大丈夫だよ。ガキじゃねーんだし」
自分たちの仕事のしなさを強調しても仕方がないことだろうけど。
なんだか笑ってしまう。
「まあ、おれたちも気をつけてみてやろう。な」
氏家の声に一同は頷き、仕事に戻った。
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