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70.長い夜10
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星音堂は22時を過ぎると自動的にセキュリティが作動するようになっている。
しかし、今晩は到底終わりそうもない作業が待っているので、セキュリティ会社に連絡し、電源を落としてもらっていた。
そうしないと、いちいちトイレに行ったり、資料室に行ったりする毎に通報されてしまうことになるから。
セキュリティを解除すればほっと一息だ。
途中、睡魔に負けそうな三浦にも仮眠を取らせる。
「おれも30分ですからね!絶対に起こしてくださいよ!」
何度も言って、彼は仮眠室に姿を消した。
星音堂の事務所に一人でいることほど心細いものはない。
だけど、今日はそんなことを言っている場合ではない。
ふっとため息を吐いて、パソコンを操作する手を休める。
携帯。
自宅に置きっぱなしだ。
取りに行けばいいだけの話だけど、あの家に帰るのが恐かった。
荷物もたくさんあるのに。
なにも持ってきていないので、ワイシャツなんかは野木に借りている。
少し大きいけど、なんとかなった。
後、必要なものは全部購入して凌いでいた。
圭は日本にいないって知っていても、なんだかあの家に行ったら彼に出くわしてしまいそうな気がして恐かった。
今更。
どんな顔をして戻れと言うのだ。
気まずい。
でも、彼に会いたくないかと聞かれたら首を縦に振るだろう。
圭に会いたい。
本当は、きちんと謝りたい。
だけど、足手まとい。
自分はきっと、彼の足を引っ張る存在になる。
だからお別れなのだ。
いや。
ダメだ。
お別れなんて。
「お別れなんて出来ないよ」
やっぱりそれだけは出来ない。
桜にも言われた。
捨てられるときはすっぱり捨てられる。
だったらそれまでは彼の側にいてもいいじゃないか。
どうしても心は決まらない。
ゆらゆら蝋燭の炎みたいに揺れている。
いつも行ったり来たり。
答えが出るわけもなく、こうして数日の間、考え込んでいる状況だった。
考えても仕方がないことなのだろうか?
どうして悪いことばかり考えるのだろう?
机に額を付けてため息を吐く。
「は~……」
すると、豪快に事務室の扉が開いた。
「酷いっす!ちゃんと起こして下さいって言ったじゃないですか!!」
ちらっと時計に視線を向けると三浦が仮眠をとりに行ってから1時間以上経っていた。
「30分って言ったじゃないっすか!」
そうキイキイ怒らなくてもいいじゃない。
蒼は苦笑する。
「ごめん」
「……素直に言われるとなんだか拍子抜けなんですけど……」
三浦は自分の席に座って蒼を見る。
「蒼ちゃん、また泣いてたんっすか?本当に泣き虫ですね」
「泣いてなんかないよ」
「そうっすか?目が赤いですよ」
蒼はごしごしっと目を擦って顔をそらす。
「蒼ちゃんらしくないんじゃないですか~?」
「おれらしいってなにさ」
「えっと~。怒りん坊とか。食いしん坊とか」
「悪いことばっかじゃん」
「えっと~。あれ~?そんなはずはないんだけどな~」
三浦は首を傾げる。
疲れていて思考がまとまらないのだろう。
蒼は苦笑する。
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