アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
71.憂鬱な旅3
-
『音楽家だって人間だ。大なり小なり悩みを抱えている。いちいちそれに左右されていたのではプロとはいえない。プロは何事があっても最高の演奏を聴衆に届けることが使命だ。それが出来ないならアマチュアに逆戻りするしかないからな』
ショルの言葉は胸に沁みる。
仕事なのだから。
圭にとったら演奏をすると言うのは使命でもあり仕事でもあるのだ。
それでお金をもらうわけだから、生半可なことは許されないのだ。
『高塚。今日の夜は打ち合わせをするから。事前に渡しておいた資料を持ってくるように圭に伝えて』
『はい!』
『じゃ、おれは少し外に出るけど。レオーネはどうする?』
『おれも部屋にいる。少しやることがあるから』
『そうか』
『じゃあ、また後で』
三人は別れる。
ショルが出て行こうとすると、後ろから着いていく男がいた。
彼はショルのマネージャーか?
ゼスプリのときも見た気がする。
それから視線を向けると、レオーネが一人でエレベーターに入るところだった。
彼の側にも男がいたと思ったけど。
今回はいないのか?
変なの。
ま、いいか。
自分は圭のことだけ心配していればいいんだし。
高塚も夜までは部屋で休むことにしよう。
圭にはメールをして、日程を伝えて……。
自分もエレベーターに乗り込む。
「プロか」
音楽の世界は厳しい。
努力したことが報われるとは限らない。
高塚からしたら、圭がどれほど苦労しているのかよく分かっている。
最初は、血筋で天才と言う名を手にした幸せ者としか思っていなかった。
だけど、違う。
圭は暇さえあればヴァイオリンを弾いている。
引いていないときでも楽譜を見て、常に音楽のことに思いを馳せているのだ。
そこまでして今の地位を手に入れたのだ。
イメージと違った。
すごい努力家だし。
それにすごく人間だった。
高塚からしたら何かを極めた人はこの世の人とかけ離れて見える。
同じ人間なのかと疑うくらい。
でも圭は限りなく人間で、自分に近い存在だった。
蒼とのことで落ち込んだり、喜んだり。
音楽を極めようと寝る間も惜しんで練習して。
酒を飲んでぐ~たらしてる時もある。
そんな人間の彼が生きていくには難しい世界なのではないか?
そんな疑念が過ぎるが。
自分は彼が快適に、最小限の負担で音楽に専念できるように努力しなければならいのだ。
だから、今回の件では頭が痛む。
日程面や仕事のことでの調整では調整できても、蒼とのことは調整することが出来ないからだ。
「仕方ないよね」
自室の前に立ってぼんやり呟く。
今は自分に出来ることをやるしかないんだから。
蒼とのことは、帰国してからの話しだ。
それまでの数日間。
自分は圭が仕事に専念できるように配慮しなければならないから。
「頑張ろう」
高塚は大きく頷いてから自室に入った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
536 / 869