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71.憂鬱な旅6
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『奥ゆかしい態度とるなよ。イタリア人のくせに』
『おいおい!イタリア人だっていろいろあるんだぞ?一まとめにするなよ~!』
『それはおれが言った台詞だろう?』
レオーネは肩を竦める。
『お前と同じようなもんだよ。あのコンクール以降、ブルーノもコンクールで優勝しちゃって。それであっちこっちから引っ張りだこさ。逢う時間もほとんどなし。むしろあいつのほうが忙しいくらいだ』
『へ~。あの子がねえ』
圭はブルーノを思い出す。
イタリア人としてはちまっとしている方だった。
二人はなにかあるなって思っていたけど、やっぱりただの相棒って訳にはいかないようだ。
『思う人と一緒にいられないってジレンマは世界共通なんだな』
『確かにな』
いつの間にか、自分の前に置かれたコーヒーを眺めてため息だ。
『ずっと考えている。こういう世界に身を投じたってことは誰か一人に固執するのが無理になるんじゃないかって。適当に世界を飛び回って、その先々での恋愛を楽しむものなのかなって思ったり』
圭の意見にレオーネは同意する。
『悠々自適だな』
『でもそんなんじゃないんだ。やっぱり、おれの帰るところは一つしかないし』
『そうだよな~』
『側にいるばっかりが恋愛じゃないって。そうも思うけど』
『それはまっとうな意見だ』
『でも、そういう思いとは裏腹に側にいたいって思いも強くて』
レオーネは肘を突いて自嘲する。
『どう考えても答えは見えないようだな』
『本当だ』
『おい!これは音楽家としての試練かもしれないぞ?』
なにを急に。
圭は瞬きをして彼を見る。
『音楽家には不幸やら苦悩が付き纏うものだ。神がいい音楽を奏でられるように与えた試練かも知れない』
『……信仰心のあるヤツはいいよな。いつでも前向き思考だ』
『そう言うな。お前だって神を全く信じていないわけじゃないんだろう?』
日本人の圭にとったらそういう発想はあまりない。
『信じるもなにも。考えたこともないな』
『そっけないねえ』
神の試練なんて。
そんな神の気まぐれに巻き込まれた自分や蒼の身にもなってみろ。
酷い運命だ。
ため息しか出ない。
今晩、演奏会があると言うのに。
こんな調子でうまくいくのだろうか?
もんもんする。
二人で顔を突き合わせて考え込んでいると、能天気な声がロビーに響いた。
『悩める凡人どもよ!暗い顔をしているな!』
がっくりする。
どこにいても目立つ男だ。
見たくない。
直視したくない。
認識したくないのだ。
だけど、男はつかつかとまっすぐに二人のところにやって来た。
『やあ!』
もうとっくに聞こえている。
ただ無視しているだけ。
しかし、ここまで来て知らん振りする訳にはいかない。
圭はため息を吐いて顔を上げる。
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