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71.憂鬱な旅7
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『おはよう。ショル』
『しけた顔をしているな。お前たち二人は』
『お前みたいに能天気じゃないんだよ』
悪態をついても仕方がないとは思いつつも、こういう態度をとらずにはいられない。
あんまりにもむかつくから。
『そんな喧嘩腰だから蒼に逃げられるんだぞ』
『蒼の話はするな。お前が「蒼」って単語を発するだけでイラっとする』
『なんだよ~。逃げられたお前にそんな権利があると思っているのか?後のことは任せろ。おれが蒼を引き受けてやるから』
ショルはぽんぽんと圭の肩を叩く。
それを払って睨み返す。
『おれが嫌われるのは仕方がないが、お前にだけは死んでも渡すものか』
『酷い。酷いよな。レオーネ』
黙って聞いていたレオーネは苦笑する。
『おれは圭の意見に賛成だな。お前にだけは渡したくないと、おれも思うぞ』
『聞き捨てならないな。ブルーノには手を出していないだろうが』
には?
圭とレオーネは呆れて顔を見合わせる。
『お前のような男だったら苦労しないんだろうな』
『本当だ』
『どういう意味だ?』
話の内容が見えない。
ショルは面白くなさそうな顔をした。
一人の人に固執しない性格。
ショルは音楽家向きなのかも知れないな。
そう判断したのだ。
『まあ、いいじゃないか。おれたちがお前のことを褒めるなんて珍しいことだぞ』
『……お前たちに褒められてもなんの得にもならないのだが』
首を傾げるショル。
二人はごまかした。
すると、そこにビクトリアが顔を出す。
『みんなここにいたんだ。ショル、ちょっといい?』
『ああ』
彼女は嬉しそうだ。
少し茶色掛かった髪。
つややかな長い髪をカールさせ、彼女はおしゃれをしていた。
連れ立っていく姿はただ事じゃない。
『おいおい。もう手を出したとか?』
見送るレオーネは呆れている。
『いい性格だ。あれ』
『行くところ、行くところで手を出していたら寂しくないのだろうな。どこに行っても最愛の人がいるわけだから』
『あんなヤツだと思わなかった』
本当に蒼を取られなくてよかったと思う。
蒼が悲しむところなんて見たくない。
『あれも恋愛の一種だからな。おれたちは思いつめるほうなのかも知れないな』
レオーネの言葉に圭もぼんやりと考える。
あんまり考えすぎなのだ。
側にいなくちゃとか。
蒼のためとか。
圭が一生懸命に考えることが、かえって蒼に負担をかけさせていたのかも知れない。
自然でいいのかな?
圭一郎とかおりもそうだ。
一緒にいられるときは一緒にいるし。
離れて活動するときは離れている。
蒼ともそういう関係でいられたらいいのかな?
お互い。
『お前もそうだな』
『なに?急に』
『いや。いいんだ。お互い、自分のベストな関係を保てるように苦労していかなくちゃいけない時期なんだなって』
一人で納得している圭。
レオーネは面白くない。
『なんだよ。お前まで。つまんないの』
『こればっかりは自分たちの問題なんだろうなあ』
『だから。いや!もういいや。うん。いい!』
彼は立ち上がる。
『この話はやめだ!今日の演奏会のことを考えようぜ。楽しまないと。損だ』
心を切り替えるのも上手なのだろう。
こういうところは見習いたい。
『よし。最高の夜にしてみせる』
『その意気だ!ちょっと合わせようぜ』
『うん』
二人は連れ立ってホテルを出る。
練習場まではすぐだった。
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