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72.指環と契約と1
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仕事も生活も落ち着いた。
そう言っていいのだろうか?
三浦と悪戦苦闘した本庁との打ち合わせはひと段落した。
どんなことになるかと構えていたが、安齋と一緒に来た室長である保住は気さくな人で緊張しないで打ち合わせをすることが出来たのだ。
圭とのことでもんもんしていた気持ち。
仕事の忙しさで紛らわしていたものの、その仕事が一段落したから、きちんと向き合わないといけない状況になったのだ。
足元で猫缶をおいしそうに食べているけだもを見てため息を吐く。
いつまでもここにお世話になるわけにもいかないし。
しゃがみこんでじっと考え事をしていると野木がやってきた。
「いい食べっぷりだな~」
「野木さん」
「なんだい。お前も少しは元気出たみたいじゃないか」
「……すみません」
「すぐ謝る」
彼はモップを振る。
彼がラプソディーのためにどれだけ頑張って働いているかよく分かった。
桜はママのくせになにもしない。
せっせと動いているのは野木だ。
今までどうやって店を切り盛りしていたのか不思議だったが、よく聞くと、野木は客時代からせっせと動いて手伝っていたらしかった。
「二人は本当に仲がいいんですね」
「はい?二人って?」
まだ店に出てこない桜。
野木と二人で店にいると広く感じた。
「野木さんと桜さん」
「仲がいいって言うのか?これ」
「付き合っているんじゃないんですか?」
そこは聞いてみたかったところ。
野木は笑って、側に椅子に腰を下ろす。
「付き合っているって範疇じゃないな」
「へ?」
「そうだな~。俗に言う『友達以上恋人未満』ってとこか?」
「そうなんですか?おれ、てっきり同棲しているし。付き合っているのかなって」
蒼も側の椅子に座る。
「なんていうのかな~。恋人って言うよりも相棒って言うか。仲間って言うか。なんだか好きとかそういうもんじゃないって思っている。おれはね」
「ふうん」
難しいのだな。
「ただ一緒にいたいからいるだけかな?」
「……そうなんですね」
「そうそう。一緒にいたいって。お前だってそうなんだろう?あいつと。一緒にいたいって」
そう。
圭と一緒にいたい。
「そうです。一緒に……」
野木はモップを側に立てかけて、それからまっすぐに蒼を見る。
「戻れよ。そろそろ」
「野木さん」
「いつまでも逃げ回っていたって仕方ないんだ。あいつ、明日には帰ってくるんだろう?ちゃんと話したほうがいいぞ」
「……はい」
分かっている。
分かっているのだ。
「帰ります」
蒼は立ち上がる。
「おれ、帰ります」
「よし!いい心がけだ。さっさと帰れ」
自宅に帰ることを理解したのか。
けだもは毛づくろいしていたが、嬉しそうに蒼の足に顔を擦りつけた。
「なに?帰るの?」
そこに眠そうな顔の桜が出てくる。
「あ!はい!桜さん。本当にお世話になりました!おれ、後でちゃんとお礼をしに来ますから」
「あ、そう」
桜は笑う。
「じゃあ、あんたにも店手伝ってもらうかな」
お世話になっている間、蒼もすっかりラプソディーのお手伝いをさせられていた。
酔っ払いの相手はなかなか面白かった。
人当たりはいい男だから、お客さんにも馴染んでいた。
「おいおい。桜。蒼は仕事もしているのだから」
「いいじゃん。遅番のとき以外でいいからさ」
「すみません。はい!」
「お人よしなんだから」
野木は呆れる。
「また来な。あたしは大歓迎だよ」
桜は微笑んで煙草に火をつけた。
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