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72.指環と契約と2
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なにも持たないで出て行ったのに。
この一週間で荷物が増えた。
野木から借りたワイシャツとか。
買い足した日用品とか。
けだもを抱っこして我が家に帰ってきた蒼。
2週間ぶりだった。
大きくてあんまりいい印象がない家だったのに。
久しぶりに見るとなんだかほっとした。
やっぱり、ここが我が家なのだ。
自分が帰るべき場所。
けだもを庭のほうに放して、自分は郵便受けの側の植木を持ち上げる。
ここに鍵がおいてある。
なかったらどうしようかと思ったけど、鍵はそこにあった。
圭にしては珍しいことだ。
いっつも「こんなところに鍵を置くなんて無用心だ。いくら田舎だって危ないんだぞ」って怒っているクセに。
蒼がいつ帰ってきてもいいように置いて行ってくれたのかも知れない。
そう思えた。
鍵についた土を払って玄関を開ける。
しばらく人が出入りしていないから埃くさかった。
圭も忙しいだろうに。
掃除をちゃんとしてから出て行ったのだろう。
玄関が開く音を聞きつけ、けだもが嬉しそうに駆けてくる。
そして中に飛び込んでいった。
けだもにとったら、この家の中が自分のテリトリーだ。
辺りのにおいを嗅ぎつつ、廊下の奥に進んでいく。
それを見ていると笑ってしまった。
自分も同じだ。
家の匂いを嗅いだらほっとした。
自分のテリトリー。
ここが自分の居場所。
この家が自分の居場所なのだ。
中に入り込み、一つ一つ部屋を確認する。
居間も。
台所も。
書斎も。
寝室も。
なにもかも見慣れて、落ち着く場所。
ほっとしたら気が抜けた。
「バカみたい」
こんな落ち着く場所なのに。
なんで逃げ出したのだろう。
そうだ。
思いつく。
なにも自分が出て行くことはないのだ。
「ここはおれの家だもん!圭のことを追い出してやる!」
冗談めいて放った言葉に笑ってしまう。
一通りパトロールを終えて戻ってきたけだもを抱っこする。
「嘘だよ……。圭、早く帰ってこないかな」
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