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72.指環と契約と5
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こういう場合って、どんなことから話をしたらいいのだろう。
蒼はもごもごしていた。
圭の背中は大きい。
今日は特に大きく見えた。
ただ黙って二人は歩く。
歩いて帰るなんて久しぶりのことだ。
握られた手。
暖かい。
圭の手は暖かかった。
だけど、その暖かさが胸に染み入る。
自分が惨めに感じた。
「ご飯、食べてたの?」
ふと上から声が降りてくる。
「え?」
突然で思わず声に詰まった。
「えっと」
「食べてないんじゃないかと思って」
ぎゅっと手に力が入る。
「圭……」
「まったく。蒼は」
ふっと止まった彼。
思わず背中にぶつかった。
「わっ」
そんな蒼なんてお構いなしで、圭は蒼の肩を掴んだ。
「この、お馬鹿!」
「……っ!」
大きな声にビックリして肩を竦める。
「どうして出て行ったりしたの?心配してたんだからね!」
「ご、ごめん……」
「ごめんじゃないでしょうが。蒼はいっつもそうだよ。言い訳だなんて思わないから。ちゃんと理由を話して」
蒼はまごついていた。
突然、問い詰められるとは思わなかったから。
おろおろして、視線を泳がせる。
「えっと。あの、って言うか」
「なに?」
ごまかそうとしてもダメみたいだった。
圭はまっすぐに蒼を見る。
逃げられない。
それに、ちゃんと話をするって決めていたじゃないか。
本音を言うのが躊躇われる。
それが蒼だから。
ふとそれに気が付いたのか。
圭は苦笑する。
「ごめん。いっつもこれだな」
「?」
「喧嘩すると蒼がまごまごして、おれはぷりぷりして」
「そうかな」
「そうだって」
「よく見ているね。おれ、喧嘩している間はそんなことまで気が回らないけど」
「蒼は一つのことしか出来ないからね」
「それってけなしているのかよ」
「けなしてなんかないじゃん」
「酷い言い草」
ぶ~っと怒ってみてからはっとする。
あれ?
緊張してギクシャクしていたのに。
気付けば、いつもの喧嘩の後みたい。
なんだか可笑しい。
今回は蒼が家出したり、大変な騒ぎだったはずなのに。
圭との関係に遠慮なんてなにも要らないのだ。
自分は自然でいられる。
だから側が心地いいのに。
ふとしたことで忘れていたものがすっかり思い出された。
「ごめん。圭」
蒼は手を離していた彼の袖を掴む。
「蒼」
「今回のことはおれに非がある。おれ、焦っていて。自分だけ置いてきぼりで。圭の足を引っ張っているのかと思って。だから、おれなんていないほうがいいのかなって思ってしまって……」
「ま、待って。ちょ、ちょっと、ストップ!!」
蒼の謝罪を遮って、圭は慌てて歩き出す。
彼の手を引いて。
「ちょっと!圭?人の話、ちゃんと聞いてよ!」
「いや。うん。いい。分かったから」
「な、なに!?その態度!!おれがせっかく謝っているのに……!」
「いや。分かっているんだって。ただ、ちょっと待って。おれにも心の準備ってものがあってだな……」
「なに言っているの?意味わかんないんだけど!?」
圭の行動が蒼には理解できない。
わたわたしつつも、二人はやっとの思いで自宅に到着した。
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