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72.指環と契約と9
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「なんだって、単純と言うか、なんと言うか」
応接セットでお茶を飲んでいた星野は大きくため息を吐く。
その隣に座っていた吉田も同感とばかりに頷いた。
「本当ですよ。おれたち振り回されっぱなしですよね」
「いや。今回の一番の被害者は三浦だろう?」
尾形は自分の席に座ってせっせと仕事をしている三浦を見る。
「言える。あいつ、使われてポイだよな」
高田は笑った。
「本人は気付いてないけど、あれはかなり蒼に夢中だよ」
高田の前に座っていた氏家は腕を組んで頷いた。
「だけど、肝心の蒼があれじゃあなあ」
一同はそっと窓辺に座っている蒼を見る。
彼は自分の席でにこにこしていた。
今朝からあの調子。
つい昨日までは暗い顔をしていたのに。
無断欠勤したり、泣いてみたり、三浦を振り回してみたり。
人騒がせな男だ。
圭と仲直りでもしたのか。
朝から上機嫌で、せっせと働いている。
「お前ら。なにしてるんだ?」
コーヒーを持ってやってきた水野谷を職員一同は気の毒そうに見上げる。
「そういや、今回のもう一人の被害者は課長ですよね」
「そうそう」
「被害者?」
「あんなに骨折って、無断欠勤のことをごまかしてくれたのに。今じゃああですから」
高田はそう言うと蒼を見る。
それに釣られて視線を向け、みんなの言葉の真意を理解する。
水野谷は苦笑した。
「まあまあいいじゃないか。星音堂のムードメーカー兼マスコットだ。いつもにこにこしていてもらわないと、こっちも適わないよ」
水野谷はそう言い、蒼と三浦のところに行く。
「おい、お前たち。にこにこしているのはいいが100周年記念の件はどうした?明日までに安齋に上げる書類があっただろう?」
「げ!蒼ちゃん、どうしましたっけ?」
三浦は慌てて蒼を見る。
「ちゃんと終わっています。三浦になんか手伝ってもらわなくてもできますから」
「ひどいっす!おれのこと頼りにしてくれてるんじゃないんですか~?」
「100年早い」
「蒼ちゃんッ~!!」
おいおい泣いている三浦は不憫だ。
星野は笑ってしまう。
「一番度量があるのはやっぱり課長なんだな」
「上に立つ人はそれくらいじゃないとダメだってことかね」
氏家も首を竦める。
「高田さんも上を目指すなら大きな男にならないと駄目ですね」
「吉田~。お前、いい度胸しているな」
「ごめんなさい」
各々が好きなことを言い合っていると蒼が顔を出す。
「みんなでなにサボってるんですか。ちゃんと仕事してくださいよね」
星野はため息だ。
「お前に言われたくないんですけど」
「へ?」
「なんでもねーよ。こっちの話だ。ささ、仕事しようぜ~。にこにこ蒼ちゃんが怒ってるからよ~」
「なんだか皮肉っぽいんですけど!」
「いいから、いいから。今日からお前はにこにこ蒼ちゃんだ」
「なんですか。それ」
膨れる蒼。
星野は蒼の背中を押して席に戻す。
その途中でふと視線が止まった。
「おいおいおいおいおい~!」
「ッ!?」
「これ、見てみろよ~~!!」
星野は意地悪だ。
調子に乗っている蒼には制裁を加えないと、とばかりに蒼の左手を掴み持ち上げる。
「わわわわ~!」
「なんだよ~!見てもらいたいからしてきたんだろう?」
「ち、違……っ」
席に戻りかけていた職員はどやどやと寄ってくる。
蒼の左手の薬指には金色の指輪が光っていた。
「うお!とうとうかよ?」
「にこにこの原因はこれか!?」
「入籍会見しろ!」
「これは、その」
「そのなんだよ~」
星野はしつこい。
「喧嘩の仲直りで」
「仲直りで指輪なんてくれるかよ~」
「ごまかすところが怪しい。いい加減白状しろ」
尾形も便乗して大騒ぎだ。
席に座っていた水野谷は呆れてコーヒーを飲んでいるし。
この事実にショックを受けたのか。
三浦はしょんぼりして席に座っていた。
なにをしても大騒ぎになる星音堂。
この騒ぎはしばらく続きそうな勢いだった。
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