アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
73.星音堂幽霊事件2
-
夏の風物詩といったら「花火」。
そして「怪談話」であろう。
どうして夏になるとこうも恐い話が出てくるのだろうか?
この暑さを吹き飛ばすために涼しくなるために話すのだろうか?
その真意は蒼には分かるわけもなかった。
ここのところ、星音堂でもその手の話がよく話題に登っていた。
いつもは受身な三浦だが、こういう話が好きらしい。
今日も、彼はネットで仕入れてきた恐い話を切々と語る。
「それで、その幽霊ペンションから帰ってきた若者たち。行くときは3人だったのに、車に乗ってみるとどうでしょう?座席が全部埋まっているじゃないっすか!」
「へ?どういうこと?3人で行ったんでしょう?4人に増えたってこと?」
「そうなんっすよ。だけど、どこでどうなったのか。誰が増えたのか、誰もわからない」
蒼は一生懸命に三浦に食って掛かる。
「なんで?一緒に行った人の顔を忘れちゃうってこと?」
「違いますよ。そこにいるのは見知った顔。だけど、誰かが確実に多い。でもみんな知っている人。そういうことなんですよ」
三浦の語ったそれはそんなに難しいことではない。
だけど、見知った人ばかりなのに、一人多いってとても恐いことだ。
知っているはずの人たち。
もしかしたら自分が余計?
誰が余計?
急に足元をすくわれてしまったような恐怖に駆られる。
蒼は思わず、三浦の腕を掴む。
「蒼ちゃん、恐いんっすか?」
「だって、三浦はちゃんと三浦だよね?」
「なに言ってんですか。おれはおれっす!ここは幽霊ペンションじゃないっすよ」
恐いなら聞かなければいいのに。
この恐さがたまらない。
その様子を見ていた星野は苦笑する。
「そんなに恐いなら話を聞かなきゃいいのに」
「星野さん。だって、恐いもの見たさってあるじゃないですか~」
三浦が苦笑していると、吉田が声を上げる。
「恐い話ってどうして人を惹きつけるんでしょうねえ」
「なんだよ。お前、恐くないの?」
甘えん坊の吉田は恐い話が苦手と言うイメージがあるが。
「そんなの恐くないですよ。もっと恐いのが世の中にはありますからね」
確かに。
あの安齋と付き合っているのだ。
恐いものなんかないだろう。
「それよりも恐がっているのは課長だからな」
可笑しそうに様子を伺っていた高田は口を挟む。
「え?そうなんですか?」
はっとして顔を上げると、さっきまでいたはずの水野谷がいない。
「あれ?」
「三浦が話始めた途端、席立ってどっかにいっちゃった」
尾形が付け加える。
「まさか。課長、嫌いなんですか?」
「嫌なのは確かだろうな。ずっと一緒に働いているけど、恐い話は基本的に苦手みたいだ」
蒼の疑問に答えたのは氏家。
水野谷に苦手なものがあるなんて知らなかった。
なんだか苦笑してしまう。
「課長も可愛いところがあるんですね」
「確かにな。堅物だけど、そういうところは繊細だな」
事務室内はどっとわく。
すると、水野谷が顔を出した。
何食わぬ顔だけど、きっと笑い声が聞こえたから恐い話は終わったのだと思ったのだろう。
いつもだったら「仕事、仕事」とせかされるところだが、今日はなにも言わない。
なんだかその様子がおかしくて蒼は笑ってしまった。
水野谷は厳しいことも言う課長だけど、蒼にとったら素敵な上司だ。
彼の意外な一面が見られて、なんだか嬉しく感じられた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
551 / 869