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73.星音堂幽霊事件3
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今日は遅番だった。
相方は尾形。
残業で残っているのは吉田と星野。
黙って仕事をこなしていると、ふと吉田が席を立つ。
「ちょっとトイレに行ってきます」
「一々断らなくていいから」
尾形にあしらわれて、吉田は膨れながら出て行く。
「それにしても腹減ったな~」
「尾形はいっつもそれなんだから」
「だって遅番って長いですよ。自宅帰ってからじゃ9時過ぎちゃうし。ここで食べていくしかないじゃないですか」
食べ物に関して、あまり興味がない星野からしたらどうでもいい話らしい。
「そういや、関口。しばらく休みなんだって?」
「え?はい」
話題は変わる。
今度は蒼が返答をする番だ。
「よかったな~。今回は花火大会に一緒に行けるんじゃないのか?」
「あ!本当だ」
蒼は慌ててカレンダーをチェックする。
「星野さん~。ありがとうございます。すっかり忘れていました」
「良かったな。蒼」
「はい!」
星野が素直に話しを進めるなんて珍しいことだ。
苦笑して、花火大会の日に○をつける。
「花火か~。今年はおれが当番だもんな~」
がっくりしている尾形。
「仕方ね~な。順番だから」
そうこうしている内にふと気付く。
「あれ?吉田さんは?」
「あれ?トイレだろう?」
「遅いな~」
彼が席を立ってかれこれ10分は経つ。
いくらなんでも遅い。
「おれ、ちょっと見てきます」
蒼は事務室を後にする。
なんだか嫌な感じがした。
廊下に出ると、真っ暗でぞっとした。
日中、恐い話を聞いたせいだろうか?
いつもだったらなんともないはずなのに。
今日はホールを利用する人も少ないし、なんだか静まり返っていて余計に胸がざわざわした。
静かな場所ほど、心落ち着かないのは気のせいなのだろうか?
あんまり静かで耳鳴りがする。
首を横に振って、ぼんやりと明るくなっているトイレを開けた。
「吉田さん?」
ぎいっと扉が軋む音がする。
中を覗くと、そこには誰もいなかった。
「吉田さん?」
手洗い場の蛇口から滴る水音。
妙に大きく聞こえてどきどきした。
「吉田さん?どこにいったんだろう?」
思考が鈍くなっているのは恐がっているせいなのだろうか?
吉田がどこに行ったのか、思考をめぐらせようとしたその時。
ばたんっと大きな音が響く。
ビックリして思わず首を竦めた。
「なに?なんだよ~」
恐い。
音の主はゴミ捨て場のほうだ。
誰かいるのか?
吉田なのか?
蒼はドキドキしてそのままゴミ捨て場に足を向ける。
午後から降り出した雨のせいか、妙に暗くて恐かった。
「吉田さん?いるんですか?」
蒼はそろそろと金属の扉を開く。
「吉田さん~?」
首だけ出してそっと覗く。
ばたん、ばたん音を立てていたのは外にあるゴミ捨て場に続く扉が開いていたようだ。
雨風に打たれ、音を立てているだけだった。
「なんだ」
は~っとため息を吐いて、扉を閉めようと取っ手を掴む。
一瞬、外に白い影が見えた。
「へ!??」
目をごしごししても、もう見えない。
「気のせい?」
独り言を呟いてみても心臓の高鳴りは治まらない。
外の草むらで白いものが動いたような気がしたのだ。
吉田ではない。
気のせいなのか?
なんだか本格的に恐くなって、慌てて扉を閉める。
そして、そのまま事務室に駆けて行く。
「星野さん!尾形さん!!なんだか変なんです……あれ!?」
駆け込んだ事務室には誰もいなかった。
テレビは着けっぱなし。
星野の机の上のパソコンは起動中だ。
「あれ?」
蒼はとぼとぼと中に入る。
ついさっきまでいたのはよく分かる。
尾形の机の上にあるマグカップからはコーヒーが湯気を立てていた。
「……みんな、どこにいっちゃったんだろう?」
急に不安になる。
足元が一気になくなってしまったかのようだ。
変な焦燥感が胸をざわつかせる。
「星野さん?尾形さん?吉田さん?」
名前を呼んでみるけど、変な静寂が恐ろしい。
テレビから聞こえてくるバラエティー番組の声が虚しく感じられた。
「どこ?みんなどこいっちゃったの?」
ふと日中の恐い話を思い出す。
どきどきして事務室内をうろうろと歩き回る。
なんだか泣きそうになった。
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