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73.星音堂幽霊事件5
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翌日。
もう誰も恐い話をしない。
「なんだよ?今日は恐い話はなしか?」
高田の問いに、星野たちは無言の返答を返す。
よっぽど昨日の事件が懲りたのだろう。
一同は黙っている。
すると、いつもだったら混ざらないはずの水野谷が声を上げる。
「そういえば、星音堂に勤務して、随分、恐い目にあったな~」
「へ!?」
「課長?」
吉田は目を丸くする。
仕事していた手は止まる。
水野谷がそんな話題を口に出すとは思いもしなかったのだ。
きょとんとしている一同を見て、逆に水野谷が不思議そうな顔をする。
「なに?」
「だって、課長。恐い話が苦手なんじゃ……」
「苦手って言うか。いろいろあったんだよ。おれも」
「いろいろ?」
「ど、どういう意味なんっすか?」
「聞きたいのか?三浦?」
水野谷は意味深だ。
一瞬、静まり返った事務室。
「そうだな。話せば長くなるが。おれがここに来た当初、戸締りをしに大ホールに行ったときに……」
「わ~!わ~!!」
吉田は耳を塞いで大声を上げる。
「なんだ?聞かないのか?」
同様に耳を塞いでいた星野や尾形、蒼は首を横に振る。
「も、もう!結構です!!」
「課長、すみません!もうこんな下らないことはしませんから!!」
四人は慌てて事務室を出て行く。
取り残された氏家たちは訳が分からない。
ぽかんとしている。
「弱虫な奴らだ」
仕掛けた本人である水野谷も苦笑するばかり。
「課長、本当に恐い体験なんてあるんですか?」
「ん?」
氏家の問いに、彼は肩を竦める。
「ないとは言えないな。しかし、それが本当に恐いものなのかどうか。それは未だに分からず仕舞いなんだ」
「恐いものかどうか分からないって?」
三浦が首を傾げる。
「なんなのだろうな。おれは心霊現象とか信じてはいない。だけど、人の思いって言うのは強いものだ。恐いって気持ちだけでは言い切れない部分が多いと思うんだけど?」
意味の分からない三浦は更に首を傾げる。
しかし、高田が補足をしてくれた。
「確かに。人に悪さばかりするやからではないってことだよ」
「そんなもんですかね?」
「そんなもんだよ。お前のご先祖様だって心配して見守ってくれているんだ。そういうものを恐いと感じるか?」
「う、それは。むしろありがたいです」
「だろう?そういう意味ですよね?課長」
ちょっとぼんやりしていた彼は顔を挙げ、そして曖昧に笑う。
「そうだな」
「ほらみろ」
「分かりました。おれも反省っす。おもしろおかしくしたらご先祖様が怒ります。気をつけます!」
「そうそう」
高田に褒められて嬉しそうな三浦。
だけど、水野谷はぼんやりしている。
なにかに思いを馳せているのだろうか?
そんな彼の横顔を見て、氏家は声を上げる。
「さて!あのお馬鹿どもを連れ戻しに行ってきますか」
妙に明るい声に引き戻されたのか。
水野谷は氏家を見る。
「そうだな。避難と言う名のサボりかも知れない」
「そうでしょう?課長もそう思いました?」
「ずるいっす!おれも連れ戻しに行きます!!」
「よし!じゃあ三浦も来い」
二人は連れ立って事務室を出る。
その後を高田も追いかけていった。
一人取り残されて、ふと外を見る。
夕暮れ時の林。
薄暗くなっているそこに水野谷は白い人影を見る。
「もうそんな時期なのかね」
瞳を細め、人影を眺めると、それはふらっと林の奥に消えていった。
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