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73.星音堂幽霊事件13
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「ニ短調。ちょっとやそっとじゃ弾けないですよ」
圭も首を傾げた。
これは覗くしかない。
予定外で、パイプオルガンを使うなんて、水野谷しか考えられない。
一般客が入り込むなんてありえないのだから。
そっと重い扉を開いて、中に入る。
先頭で入った星野は息を飲んだ。
「ちょ、星野さん、もっと中に入って……」
後ろから来た職員たちは星野の背中にぶつかって玉突きのようにバランスを崩す。
そして見た。
うっすらオレンジ色の光で灯されたパイプオルガンの席に一人の女性が座っていた。
彼女は長い髪を揺らし、そして華麗に音をつむぎだす。
ぼんやり、全身が光っているように見えるのは気のせいなのだろうか?
そして、客席で一人、水野谷がじっと彼女の演奏に聞き入っていた。
倒れ込んだ職員たちは動くことなく、重なった状態でじっと音楽に聞き入った。
蒼にはパイプオイルガンの良さは分からない。
だけど、胸に染み入る音楽だった。
重い響きの中に済んだ高音が馴染む。
思わず瞳を閉じて聞き入ってしまった。
「綺麗な曲ですね」
ぽつんと吉田の呟きが聞こえたか、聞こえないかの内に、曲はクライマックスを向かえ、威厳を帯びた和音で締めくくられた。
余韻を残し、いつまでも響き渡っているホール。
水野谷はじっと瞳を閉じていたが、拍手が響いたので顔を上げる。
見ると、入り口付近にだるまのようにまとまった職員たちが拍手をしていた。
「あいつら……」
彼は苦笑して演奏者を見る。
彼女はふわっと椅子から降り、こちらに一礼する。
若い女性だった。
真っ白いワンピース。
透けるような肌。
透けるような?
蒼は目を擦る。
本当に透けている。
彼女の向こう側の鍵盤が明らかに見て取れた。
「へ?」
「ええ?」
吉田も声を上げる。
にこやかに微笑んでいた彼女は水野谷を見て、一礼をした。
水野谷も軽く手を振る。
それに満足したのか。
彼女は満面の笑みのまま、姿を消した。
「消えた!??」
尾形はぽかんとして開いた口が塞がらない。
他の職員も同様だ。
呆然としている職員たちは動けない。
だるまになったまま、ぼけっとしていると、水野谷がやってきた。
「まったく。お前たちは。仕事をしろといえばしない。帰っていいといえば戻ってくる。ちっとも上司の言うことを聞かないんだから」
彼はだるまを見下ろして、苦笑していた。
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