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74.花火4
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「あれ?圭じゃん」
聞き慣れた声に顔を上げると、宮内がいた。
「なんだ。久しぶりだな」
彼は嬉しそうに人ごみを掻き分けて寄ってくる。
いちいち来なくていいのに。
そう思うが、仕方ない。
彼は桃と一緒だった。
花火大会だからデートなのだろう。
「よく来るな。こんな人ごみに」
圭は二人を見てため息を吐く。
やっと追いついた蒼も立ち止まって二人を見上げた。
「宮内くんと桃さん」
「あら。蒼。可愛いじゃない。浴衣なんて着ちゃってさ」
「そういう桃さんこそ……」
襟から華やかなフリルを見せている彼女の浴衣。
こういうものを着てもいい年頃なのだろうか?
いや。
桃は案外、若く見える。
くるくる巻いた髪にピンクの浴衣。
こうして見るとただのギャルだ。
「おばちゃんの会話じゃないんだからさ。お互いを褒めあうってどうなのよ」
宮内は呆れている。
「あんたって本当に女心が分からないんだから。だから嫌われるんだよ。女の子に」
そういう自分はどうなのだろうか?
しかも、さも蒼はしっかり女心を分かっているかのような台詞だ。
笑うしかない。
「せっかくなんだし。一緒に見るか?」
宮内は圭にすがるような視線を向ける。
今日は出かけてくる前に桃と喧嘩でもしたのだろう。
トゲのある言い回しは、彼女の十八番だが、今日は更に磨きが掛かっている。
機嫌が悪い証拠だ。
一緒にいて場をなんとかしてくれと言う合図らしい。
しかし、今日は二人で一緒って……。
圭がそう断ろうとしたとき。
蒼が返事をする。
「いいよ~。一緒に。みんなでのほうが楽しいもんね?圭」
「でも……蒼」
「いいって。いいの。ね?」
彼はそう言って、圭の腕を引く。
「ありがとう!助かるよ。蒼ちゃん」
宮内は嬉しそうだ。
圭はなんだか複雑だけど、蒼がいいならよしとするしかない。
「ともかくだ。なんとかじっくり花火が見える場所に移動しようよ」
蒼にせっつかれて、二人は頷く。
そして四人で歩き出した。
すると、すぐにまた、声をかけられる。
「あれ~。またこれ。こんなに人がいるのに逢っちまうもんは逢っちまうな」
とぼけたような声色。
視線を向けると、そこには星野と油井が立っていた。
「星野さん」
先日の引越しですっかり顔見知りになっている宮内たちは星野に挨拶をする。
「なんだって。星野さんまで」
圭は膨れる。
「なんだ?その顔は~。生意気だな。お前」
星野は圭の頬をつねる。
「イタタタタ」
様子を見ていた他の四人は笑うしかない。
圭は体勢を立て直すと、星野の首に腕を回して後ろを向く。
そして小声で言った。
「星野さん、おれたちの二人っきりを邪魔するの二度目なんですけど?」
二度目。
一度目は大晦日の温泉で。
せっかく蒼と二人だけの旅館ライフを楽しもうと思っていたのに。
結局は星野と油井と一緒に年を越す羽目になった。
そして、今回。
しかし、星野は笑っている。
「二人きりって。四人いるんですけど?」
そう言われると痛い。
宮内と桃もお邪魔だ。
それはいい。
どこかで巻いてやれ。
そう思っていたのに。
星野たちまで来られると困ったことになる。
だが、視線を戻すと、後ろのほうでは蒼が勝手に「一緒に見る?」などと油井に声をかけている。
彼は嬉しそうに頷いていた。
がっくりだ。
自分の努力はむなしいものだ。
「ほれ見ろ。みんなで一緒にだってさ」
納得できない。
一気に機嫌が悪くなる。
「お~い。みんなで一緒に回ろうぜ~」
圭なんかそっちのけで星野はみんなを誘導する。
「ほれ。おいていくぞ」
おいていってもらったほうが幸せだ。
今度は蒼に手を引かれて歩くことになった。
20分くらい歩いただろうか。
一向に安心して花火を見る場所は確保できなそうだった。
河川敷の人ごみは激しさを増し、手を繋いでいても、前にいる蒼の姿が見えないほどだった。
圭は疲労と、イライラと。
そして、この雑音で気分が悪くなってきていた。
ざわざわしているこの空気から逃れたい。
そう思った。
気を抜くと蒼との手が離れてしまいそうだった。
もう離してしまおうか?
蒼は星野たちと一緒にいるから安心だし。
最終的に車のところに戻っていれば、きっと蒼とは逢えるはずだ。
そう思った。
ここで一旦、この集団とは別れて、少し休みたい。
ぼんやりと考えていたせいだろうか?
疲労のせいだろうか?
無意識の内に蒼に繋がれていた手は離れていった。
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