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74.花火5
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ふと差し出された葡萄飴。
ナンパなんて……。
そう思って顔を上げてビックリする。
圭だった。
「圭……」
「泣きそうだな。蒼」
「ど、どこ行ってたんだよ!!」
慌てて立ち上がろうとして、草に足をとられる。
「わわ」
「危ないな~。蒼は」
圭は慌てて彼を捕まえる。
土手を滑り落ちるところだった。
「ごめん」
しっかり抱きかかえられて恥ずかしい。
顔を赤くしている蒼を土手に座らせて自分も横に座る。
「なんだか気分悪くなっちゃって」
「ごめん。気付かなくて」
「いいんだ。おれのほうこそ。一言、言っておけばよかったんだけどさ。すごい人だったし。蒼は星野さんや宮内たちと一緒だからいいかなって思って」
「よくない!」
蒼はぷいっと顔をそむける。
「なんだよ。そうへそ曲げるな」
「よくないよ!」
圭は肩を竦めて葡萄飴を頬張る。
「ごめんって。黙って離れて……」
「そうじゃなくて」
「なに?」
圭がいないからつまらない。
そう思ったから。
だけど、言わない。
めんどくさいし。
恥ずかしいし。
圭をいい気にさせてはいけない。
そう思ったから。
「なんでもないよ。葡萄飴、寄越して」
「恐い、恐い」
もう一方の手にあった葡萄飴を取り返して、蒼はむすっとする。
「こんなのでごまかされないんだから」
「ごまかす気はないんだけどねえ」
「知らない。嫌い」
「そんなに怒らなくたっていいじゃん~。車のところで待ってようと思っていたんだよ?蒼は戻ってくると思ったし。だけど、途中で蒼を見つけたから」
蒼がなんで怒っているかなんて圭には分からない。
だけど、蒼が怒る理由の半分は正当で、半分は理不尽なものだった。
一つは放置したこと。
もう一つは。
自分が圭を見つけられなかったのに、圭は自分を見つけたってこと。
いつもそうだから。
いつも、圭が自分を見つけてくれる。
それが面白くなかった。
自分だって圭のことを見つけたい。
たくさん人がいる中から彼だけを見つけたかったのだ。
「そんなに怒っているならおれ帰っちゃうから」
いつまでたっても怒っている蒼に痺れを切らしたのか。
圭はとぼけて立ち上がる。
「じゃあね。蒼。星野さんたちに送ってもらいな」
「え!ちょ、ちょっと!」
蒼は慌てて圭の足を掴む。
「なに?」
「だめ。帰っちゃ」
「じゃあへそ曲げなおす?」
「なおす。なおすから」
「よし」
結局、怒っていたのは蒼だったのに。
謝るのは蒼らしい。
「ごめん。圭」
しょんぼりして蒼は俯く。
「なに言ってんの。蒼は悪くないでしょう?謝る必要はないよ。だけど、いつまでも怒ってたらつまんないじゃん。花火。終わっちゃうよ」
蒼の隣に座りなおした圭は優しく笑う。
「だって。おれだって、一生懸命に圭を探したのに」
どうして見つけられないんだろう?
圭を好きだと言う気持ちが足りないのかな?
「なに?そんなことで落ち込んでいるの?」
そんなことでもない。
蒼にとったら重大な問題だ。
「だって」
「いいんだよ。蒼はちょっとだけ不器用なだけなんだから」
不器用。
そんな言葉で片付けてもいいものなのだろうか?
「悲しい顔はなしでしょう?花火。ほら」
圭に促されて顔を上げると、最後の花火が打ちあがっているところだった。
クライマックスにふさわしい、華やかは花火。
夜空に舞ったかと思うと、すぐに消えてしまう。
次から次へと、色とりどりの光が降り注ぐ。
「蒼とこうして二人で見られるなんて……最高の花火大会だね」
蒼は黙って夜空を仰ぐ。
薄い飴が崩れて、中から出てきた葡萄がすっぱい。
なんだか蒼の気持ちも甘酸っぱい。
圭の腕をぎゅっと掴んで、蒼は花火を見ていた。
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