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76.男の意地1
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関口圭の星音堂での始めてのリサイタルは大成功に終わった。
圭の念願の夢でもある星音堂リサイタル。
結局、圭の一番嫌がっているマスメディアの力もあり、ホール席は完売。
立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。
水野谷は、「このホールをいっぱいにできるのは関口親子だけかも知れないな」と感嘆していた。
それを聞けば、蒼だってご満悦だ。
あまりに人気者で遠くに行ってしまうのではないか?といつも心配していたのに。
今回の家出の件で、もう馬鹿げた勘ぐりは止そうと心を決めたのだ。
左手薬指に光るリングを見れば、圭の思いがはっきり伝わる。
今までは、物で愛情を推し量るなんてことをする気もなかったし、思いもよらなかった。
だけど、これだけは特別。
このリングの意味は重い。
リングが欲しいのではない。
これを自分にくれた圭の思いが大切なのだ。
なんだかおかしな話だけど、これを見ると彼の思いを理解できるし、なんとなく離れていても繋がっていられるような気がした。
「完全に乙女チックな発想だな……」
自嘲気味に笑っていると、外食に出ていた職員が帰ってきた。
今日は、珍しくほとんどの職員がお弁当を持ってきていなかった。
蒼も行く気になれば行けたのだが……。
なんとなく、今日は一人でぼんやりと考え事をしたい気分だったのだ。
「お、物思いに耽っているな~」
先頭を切って入ってきた高田はにやにやして蒼を見る。
「おかえりなさい。なにもありませんでしたよ」
昼食時間だからと言って、さすがに全員での外出は困る。
誰か留守番が必要なのだ。
そういう兼ね合いもあって、今回の留守番は蒼だったのだ。
「なにかあっちゃあ困るわけよ」
オヤジの定番台詞だ。
お腹いっぱいの星野は椅子にどっかり腰を下ろす。
「星野さん、なんだか最近はめっきりおしゃれしているのに……。中身はおっさんのままなんだから」
吉田はおかしそうに笑う。
「おれは元々、おっさんだからなぁ」
「あんまりおっさん化していると、若い子には嫌われるものだぞ?」
高田の言葉は痛い。
だから、こうしておしゃれしているんじゃないか。
油井はまだまだ未成年で、多感な時期だ。
おっさんオーラを出したら一発で嫌われてしまうような気がする。
星野はそう思っていた。
「だけど……大丈夫ですか?無理しちゃって。おっさんはおっさんのほうがいいんじゃないですか?」
蒼はそう思う。
だって、それが本当の星野なのだから。
なんだかこざっぱりしている星野は星野らしくない。
星野はあごに手を当てて考え込む。
「そうかな~……」
「おれも蒼の意見に賛成だな。お前、無理していると続かないぞ?」
氏家の意見は正しい気がする。
以前とは全く違う様相。
以前はよれよれのワイシャツに緩められたネクタイ。
無精ひげと無造作にハネている髪型はセットだった。
なのに。
今はぴっちりネクタイを締め、身だしなみもきちんとしている。
どこからどう見ても、普通の社会人だ。
星野らしくない。
「どうしちゃったんですか?」
「どうしちゃったんですかって、どうもこうもあるかよ。おれは社会人としてきちんとしているまでだろうが。なにが悪い?きちんとして」
「だけど……」
油井とはうまくいっているのだろうか?
星野は明らかに無理をしている風にしか見えない。
こんな調子で付き合いを続けて大丈夫なのだろうか?
「大丈夫ですか?星野さん」
「なんだよ~。蒼に心配されちゃお仕舞いだな」
彼は笑っている。
「失礼しちゃう」
ぶ~っと膨れて、蒼は仕事に戻った。
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