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76.男の意地3
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油井との待ち合わせは駅前の喫茶店だった。
なんでも、梅沢高校音楽部では先輩から後輩へこの場所をミーティングの場として活用するように言われているらしい。
その関係で、利用し始めて。
今ではすっかり常連みたいになっている様子だった。
蒼はこんな場所があるなんて知らなかった。
「よく来るの?」
入り際、油井に声をかける。
「ええ。結構。星野さんとも」
「そうなんだ」
星野がこういう場所に?
なんだか彼には居酒屋と言うイメージがあるから、意外だった。
中は静かな雰囲気。
薄暗いそこ。
目が慣れると、結構お客さんがいることが分かった。
「いらっしゃい」
若いマスターが声をかける。
もしかしたら、蒼よりも年下かも知れない。
「こんばんは」
油井の声に、彼はにっこり微笑む。
「いつもと違うね」
「えっと」
油井はきょろきょろして蒼を見る。
「今日はちょっと、相談に……」
「そう。じゃあ奥に入ったら?」
「ありがとうございます」
油井がそそくさと仕切られた奥に入っていくのを見て、蒼も慌てて頭を下げてから続く。
常連でいるなんて、なんだか油井が大人に見えた。
「すみません。呼び出しちゃって」
「ううん。それよりも、こんなお店があったなんて知らなかった」
おのぼりさんみたいにきょろきょろしてしまう。
「ここのマスターって梅沢の先輩なんです。それで、高校生でも結構、出入りしていて。先輩に教えてもらって通うようになって」
「へぇ。先輩かあ」
「ええ。音楽部の部長さんだったんです。梅沢ではちょっとした有名人で。合唱の曲とか、掛かっていたりするんで、常連さんは合唱好きが多いそうですよ」
「合唱かあ」
なるほど。
蒼も、少しは合唱をかじっている。
なんだかそれを聞いただけで、一気にここの印象がよくなった。
その内、なにも言わないのに、マスターがコーヒーを運んできてくれた。
「すみません」
ぺこっと頭を下げる。
マスターはじっと蒼を見ていた。
「えっと」
なにか言われるのか?
しかし、彼はなにも言わずに去っていった。
「な、なんだろう?」
「マスターはシャイなんです。慣れるまで時間が掛かります」
そんなんでお店をやっているんだからすごい。
なんだかおかしくなった。
店内で流れている合唱曲に耳を傾けていると、油井がおずおずと切り出した。
「あの。すみません。蒼さん」
「あ、ううん。おれも気になっていたから」
「やっぱり、変ですか?星野さん」
「うん。なんか変だね」
油井は大きくため息を吐く。
「すみません。星音堂のみなさんにも迷惑をかけているんじゃないですか?」
「え?」
迷惑ってほどでもないけど……。
そういいかけて、言葉を切る。
なんだか、油井が星野の奥さんに見えるのは気のせいだろうか?
いや。
気のせいではないだろう。
『家の人がご迷惑をかけてすみません』的な発言だ。
なんだか微笑ましくて、思わず笑ってしまった。
「な、なんです?なんで笑うんですか」
「ごめん。ごめん。なんでもない」
「なんでもなくないですよ。気になります」
「ううん。なんだか、油井くんはすっかり星野さんの奥様なんだなって思って」
正直に話しても失礼にはならないだろう。
蒼は白状する。
「な、な、お、奥様って」
油井は顔を赤くして俯いた。
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