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76.男の意地4
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「ごめん。悪い意味じゃないんだから」
すっかり黙り込んでしまった油井。
話の腰を折ってしまったらしい。
「ごめん。で?星野さんの話」
「あ、ああ。ええ」
気を取り直して。
蒼も座り直す。
「なんか、おれが余計なことを言っちゃったみたいで」
「余計なこと?」
「ええ」
それから油井は簡単に事情を説明した。
数日前、二人でお茶をしていたとき。
週末だったこともあり、星野は大好きな競馬に行った帰りだったと言う。
油井も、地元に競馬場のあるところに住んでいるので、競馬に対しては抵抗がなかった。
サラブレッドが目の前を駆け抜けていく様は圧巻だ。
感激して帰ってきたところだったのだ。
その時、ふと視界に入ったサラリーマン。
休みの日なのに、熱心に仕事の書類をまとめていた。
ぴっちりした身なり。
パソコンを開き、なにやら真剣に睨めっこしていた。
油井はそんな姿に憧れてしまうと話した。
自分も社会人になったら、あんなに素敵に仕事ができるのだろうか?と。
それから星野の様子がおかしくなったのだ。
「それだけ?」
蒼としたらそれだけの話だ。
「それだけなんです」
油井としてもそれだけの話。
「で、なに?星野さんは、油井くんが仕事の出来る男に憧れるって話をしたから、自分もそうなろうとしている訳?」
「そうなんでしょうか?おれにもよく分からないんですけど。だけど……」
油井は言葉を切る。
「油井くん?」
「あの」
彼はじっと黙り込んで、それから重い口を開いた。
「おれと付き合う前の星野さんは今みたいな感じじゃなかったですよね?それが、おれと付き合うようになってから、身だしなみとか気にしてくれているみたいで……」
「油井くん」
彼は首を横に振った。
「おれ、無理させているのかも知れない、なって」
「無理?」
「そうです。きっと、以前の星野さんが本当の星野さんなんじゃないかなって。無理して綺麗にしているんじゃないかって」
確かに。
自然体の星野はどっちかと言ったらこ汚いほうだ。
自分の格好には極端に興味がない。
それが、油井と付き合うようになって身だしなみに気をつけるようになった。
蒼も感じていることだ。
星野が頑張りすぎているのではないかと言うこと。
「おれ、星野さんには無理してもらいたくないんです。おれ、星野さんの容姿なんで気にしていません。だって最初に逢ったときは、もっとひげも生えていて、なんだかおじさんみたいで。気さくな感じがしたから」
その通りだ。
星野と油井が出会った日。
星野はいつも通りだった。
無精ひげによれよれのシャツ。
いつもの星野。
だけど、そんな外見なんてどうでもいいほど、油井は星野の内面に触れていたのかも知れない。
「おれ、どっちかって言えば、少し抜けている星野さんが好きなんです。だけど、おれのために頑張ってくれているとしたら……なんだかとっても言えなくて」
無理はよくない。
自分も思い知っているところだ。
どちらも気張らないで続く関係がいいんだから。
蒼は頷く。
「そうだよね。難しいね」
「蒼さん、ちょっと星野さんに探りを入れてもらえませんか?そして、そんなことはしなくていいって……」
「そうだねえ。ちょっと様子を見てみるから」
「お願いします」
星野は不可解だ。
特に恋愛に関して。
基本的に無頓着な性格。
しかし、興味のあるものへの執着は素晴らしいものがある。
その偏った性格がこういう場合にも出てくるのだろうか?
一緒に仕事をしているのに、仕事のときと、プライベートのときと、彼の見せる顔は違ったものに見える。
二面性のある男なのかも知れない。
何年か、一緒に仕事をしている仲でも分からないのだ。
油井が戸惑うのも頷けた。
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