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76.男の意地6
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翌日。
蒼は機会を見計らって星野を連れ出す。
「おいおいおいおい、なんだよ~。おれは忙しいんだからよ~」
こざっぱりしている星野を外のベンチに座らせて、蒼も隣に座る。
「星野さん~。もういい加減にしたほうがいいですよ」
探りを入れるなんて言っておいて、単刀直入だ。
焦っていたのかも知れない。
「なんだよ~!いい加減って。一生懸命やってるじゃね~か」
「だから!その一生懸命さがダメなんですよ」
「はあ?」
蒼は大きくため息を吐いて、ネクタイを引っ張る。
ぎゅっと締まったそれは星野の首を締め付けた。
「グヘッ!」
「元に戻ってくださいよッ!油井くんに嫌われちゃいますよ!!」
「あ、おッ!離せ~!!」
星野は手でバシバシとベンチを叩く。
しかし、蒼は気付いていない。
「まったく!なにごとにも程度ってあるんですよ!いいですか?加減を知らないと本当に、本当に油井くんは……」
「蒼~~ッ!!」
搾り出すような叫び声。
蒼は、はっと我に返って手を離す。
星野は首を押さえてぜえぜえ息をしていた。
「すみません、つい」
「こ、殺す気かッ!!」
「すみません」
興奮していたらしい。
一瞬で頭が冷える。
「なんだよ?油井になんか言われたのか?」
「えっと。あの」
蒼はしゅんとして視線を地面に落とす。
「油井くん。心配していました。星野さんが自分のせいで無理しているのではないかって」
それは自分もなんだけど……。
星野は大きく息を吐いて苦笑する。
「おれも、まだまだだな。好きなやつに心配されるなんて」
「星野さん」
彼はぼけっと空を仰いで自嘲する。
「柄にもないや。ガキみたいに。嫌われるのが恐くて。なんとかしようと思っていて」
「油井くんはそんな子じゃないって星野さんが一番分かっているんじゃないですか?」
「知っている」
「じゃあ、なんで」
煙草に火を着ける星野。
外に出れば禁煙解除だ。
「男の意地だろうが」
「意地?」
蒼には理解不能な言葉だ。
「お前は意地なんかとは無縁なんだろうけどね」
「どういう意味です?」
分からないのがつまらない。
蒼は膨れて星野の横顔を見る。
「男のプライドだろう?油井と歩いていてふさわしい男にならないといけないんだよ。おれは。だらしない格好をして歩くなんて、油井に迷惑だろう?」
油井のため?
本当に?
なんだか違う気がする。
「違いますよ。間違っています。星野さん」
「なに?」
蒼は憮然とした顔で続ける。
「それは星野さんの都合じゃないですか!?油井くんは無精ひげいっぱいの星野さんが好きなんです。周りの目を気にして、綺麗に飾り立てようとするのは星野さんの勝手ですよ」
「お前ねえ。生意気になっちゃって」
ぶうぶう怒っている蒼。
星野は呆れたようにため息を吐く。
しかし、笑い出した。
「ぶ~。いいですよ。生意気でも!」
「いや。まったく。お前は本当に……」
「なんですか!?失礼です!」
「そう怒るなよ」
星野はヒラヒラと手を振って自嘲気味に笑う。
「本当だな。おれのエゴだな」
「へ?」
「油井のためとか言っちゃってカッコつけているけどよ。本当は見栄張っているだけだな」
「そうですよ。星野さんは自然体が売りなんですから。キザな男だったら嫌です」
確かにな。
星野は瞳を閉じる。
なにをやっているのだろう。
若い男でもないんだ。
無理する必要がどこにある?
油井はそんなことを気にする子じゃないではないか。
逆に心配をかけて、無理させてしまっているのは自分のほうだ。
とんだ年上恋人である。
「あいつに心配をかけるようでは、まだまだだな」
煙草を地面に押し付け、そして髪を手でわしゃわしゃとする。
「わわ!」
「めんどくせ~。髪のセットなんて時間かかるばっかでめんどうなんだよな」
「だからって急に、元に戻らなくても……」
ネクタイを緩め、だらしない格好に早変わりした星野は笑う。
「いいじゃねえの?お前はそうしろって言ったんだぞ?」
「お、おれ?おれのせい??」
「あ~!楽だッ!いいねえ。最高だぜ」
「星野さん!!」
「これもやめだッ!」
蒼が制止するのも無視し、彼は革靴を脱ぐ。
「サンダルはどこに行ったかな?」
「ちょ、ちょっと~!!」
はだしで星音堂に入っていく星野を追いかけ、蒼は思う。
「極端すぎるんだよ~」
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