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77.二人の関係4
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あれはいつの話だったろうか?
イギリスでコンサートをした後だった。
お互い、忙しいのは知っていた。
彼に伴奏をしてもらいたいと言う気持ちを、うまく伝えられなくて、悪戦苦闘していたときだった。
珍しく、お互いの休みが合ったので一緒にお茶をする機会があった。
レオーネは決めていた。
今回の日本行き。
一緒に来て欲しいって言おうと思っていた。
ブルーノだって、日本行きの日程は知っているはずだ。
もし、気持ちがあるのなら、スケジュールを開けておいてくれるはず。
そう思っていたから。
賭けだったのだ。
もし、これで断られたら終わりだと思ったから。
待ち合わせの喫茶店でぼけっとしていると、彼は颯爽と現れた。
『ごめん。打ち合わせが入っちゃって』
彼はそう言って笑った。
久しぶりに見たブルーノはなんだか疲れた顔をしていた。
『ううん。忙しいのに。悪いな』
『そっちこそ。テレビ見ていたよ。昨日。素敵な演奏だったじゃない』
国営テレビのオファーで行ったリサイタル。
本当はブルーノに伴奏をお願いしたかったのに……。
自分的には彼が相方じゃないとしっくりこない。
どこが素敵な演奏なのだろうか?
『ブルーノは?どうしていた』
『う~ん。おれはロシアのほうをぐるっと回っていた。そうそう、お土産があったんだよ。えっと……』
かばんをごそごそしている彼の腕を掴まえる。
『へ?』
『ブルーノ』
『ん?』
『一緒に日本に行ってくれるんだろう?』
彼の笑顔は凍りつく。
そして、押し黙った。
それは『ノー』と言う意味だと言うことはよく分かる。
『そんな顔するなよ。いいんだ。忙しいんだから』
レオーネは強張った笑顔を見せ、目の前に置かれているエスプレッソに口を付ける。
『あのさ。レオーネ』
『いや。本当にいいんだって』
『だから、違くて……』
ずっと一緒だったのに。
こんな終わり方ってない。
これからもずっと一緒に音楽を作って行けると思っていたのに。
『もういいんだって!』
妙に大きな声が喫茶店の空気を止める。
側にいた客たちは一瞬、彼らを見てから、視線を元に戻る。
しんっとしていた店内はすぐに活気を取り戻した。
『レオーネ』
『もういいや。いいんだ。これで。おれはおれ。お前はお前。それが当たり前のことなんだから。圭のところだってそうだ。ずっと一緒にいられるなんておかしな話なんだ』
ポケットから紙幣を取り出して、くしゃくしゃのまま机に押し付ける。
『じゃあな。ブルーノ』
『ちょ、ちょっと!』
とてもじゃないが、もう彼の顔を見ることは出来なかった。
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