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78.いつも一緒4
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『でも、それはブルーノの勝手な考えだよね?』
蒼に見据えられるとどきっとした。
図星だ。
レオーネの考えは入っていない。
『う、うん……』
『あのね。おれも一緒だったよ?』
『え?』
『ブルーノはイタリア人のクセに随分、日本的タイプだね』
『は?』
蒼はにこにこする。
『なんでも口に出して言うタイプじゃないの』
『そ、それはそうかな?』
なんだかおかしい。
もじもじ考え込んでいるなんて。
『おれはそうだったの。この前ね。勝手に圭のためって彼のところから飛び出して。逆に迷惑かけちゃった。それと同じだよ。ブルーノはどうしたいの?自分は?』
自分はどうしたいのか。
本当だ。
そこが一番大切なのではないか?
『そうだよね。うん』
『そういうこと』
行こう。
蒼はブルーノの腕を取り立ち上がらせる。
『レオーネと話し合おう』
『うん』
荷物を抱え、歩き出そうとしたとき。
ホテルの正面入り口の自動ドアが開き、圭とレオーネが姿を現した。
蒼がブルーノを説得していたように、圭もまたレオーネを説得してきたらしかった。
「圭」
蒼が手を振ると、彼は笑顔で手を振り返す。
そして、その後ろのレオーネは気まずそうだった。
「説得してきた」
咳払いをして圭はレオーネの背中を押す。
『ほれ。ちゃんと謝れよ』
彼は気恥ずかしそうにブルーノの前に行く。
『ごめん』
『おれこそ。ごめん』
なにがごめんなのかは分からない。
でも、お互いがお互いを許すと意味としては十分なものだった。
『おれ。嫉妬していたんだ。ブルーノはずっとおれの伴奏をしてくれて、おれのサポートだと思い込んでいた。だから、お前が独り立ちしていくのが面白くなくて。わがままばっかで……』
そういうことか。
ブルーノは苦笑する。
二人の関係に「お互いの才能に対する嫉妬」と言う言葉は皆無だった。
いつも一緒に同じものをやってきたから。
そういう気持ちがなかったのだ。
そのおかげで、今回はレオーネの気持ちが微妙に理解できなかったのだ。
しかし、音楽の世界に身をおくと言うことはライバルでもあると言うことである。
生まれて然りの感情であることは明白だ。
分かってしまえばなんてことない感情だった。
蒼も思う。
圭と同じ世界にいなくてよかったのかも知れないと。
自分たちもこういうジレンマに襲われていたことだろう。
そう考えると、お互い、別々な世界において、自分が出来ることを頑張っているほうがいいのかも知れないと実感した。
レオーネの言葉にブルーノは何度も首を横に振る。
『おれがいけないんだ。おれが側にいたらレオーネが成長できないんじゃないかって勝手に思い込んで。でも、違う。おれはレオーネの伴奏だけしていれば幸せなんだから。だから、レオーネからもう用がないって言われるまでは伴奏をやらせてもらいたい』
それが素直な気持ち。
お互いの気持ちを聞けばなんてことない話だ。
レオーネは苦笑する。
『お前と一緒にいて成長できないってことはおれの力がそこまでだってことだ。おれはお前とだったら新しい音楽を作ることが出来ると思っている。だから、付き合って欲しい。いいだろう?ブルーノ』
『うん』
ブルーノの肩を掴まえて引き寄せる。
ぎゅ~っと抱き締めると気持ちが和らいだ。
ほっとしたのだ。
それを見ていた蒼と圭も。
一安心だ。
お互い顔を見合わせて微笑む。
『ところで。ブルーノ。演奏会の仕事があっただろう?どうしたの?』
一安心したところで思い出したかのようにレオーネが訊ねる。
『あれはキャンセルしてきた』
『キャンセルって……。明日の明日じゃないか』
『う~ん』
『う~んじゃないよ』
『そういうのはドタキャンって言うんだぞ?』
圭は呆れる。
プロとしてドタキャンは最悪だ。
しかし、ブルーノはにっこり笑う。
『いいじゃん。これで事務所との契約も終わりだし。自由の身になったらレオーネの伴奏に専念できるもの』
そういう部分は日本人にはない思考だ。
蒼は訂正する。
やっぱりブルーノは日本人とは違うと。
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