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79.もう一人の来訪者3
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『蒼を探しているんだ。役所だから、ここにいるのかと思って』
「蒼?」
首を傾げる保住。
蒼?
蒼ってあの蒼?
まさかね。
でも蒼って珍しい単語だから。
もしかして。
安齋は口を挟む。
『熊谷蒼?』
『そう!その子』
やっぱり。
「蒼って?」
保住は安齋を見る。
「室長。星音堂のちまっとした職員です」
「ああ」
ちまっとしたで通じるんだから素晴らしい。
なんだか笑ってしまった。
さっきまでのイライラはどこかに消えかかっている。
『蒼を知っているのか?』
男は嬉しそうに受付カウンターから身を乗り出す。
『案内してくれ!蒼に逢いにきたんだ!』
大騒ぎである。
他の職員たちは迷惑そうに顔をしかめている。
安齋のイラつきは再燃する。
あからさまに嫌いなタイプだ。
文句の一つでも言ってやらないと気がすまない。
しかし。
保住はにこやかに対応した。
『ここにお探しの人物はいませんよ。お連れ致しましょうか』
『それはありがたい!あんたはいい人だ。日本人はみんないい人だと思っていたが、なにせ英語が通じなくて困る』
失礼な言い草だ。
保住は安齋を見上げる。
「安齋。お前、この方を星音堂まで……」
おれが!?
いくら上司の命令でもごめん被りたい。
そう思った瞬間。
男は保住の腕を取る。
『おれはこの人がいい。一緒に来て!この人怖そうだもの』
「はい!?」
返事をしたのは、保住を抜かしたほかの職員。
今まで静かに仕事をしていた大堀と田口もいぶかしげにこちらを見ている。
田口なんかは、半分腰を上げてむっとした顔をしている。
『他の人じゃダメだ。この人がいい。いいでしょう?一緒に来てくれる?』
『あのねえ……』
文句をつけようとした安齋。
だけど、保住はにこにこして手を振る。
「いいよ。ちょっと行ってくる」
「室長!これから会議があるんですよ?」
「いいではないか。そうだな。大堀。お前、代わりに出ておいて」
「お、おれっすか?」
「そうそう。大堀はキミ一人しかいないじゃない」
椅子にかけてあった上着を持ち、保住は男を見上げる。
『名前聞いてないね。おれは保住。キミは?』
男は保住の腕を掴んだまま満面の笑みを浮かべる。
『ショルティ。ショルでいいよ』
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