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79.もう一人の来訪者5
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「なるほど。どうりで見たことのある男だと思った」
ショルの後から入ってきた男の声に水野谷は視線を向ける。
「保住。どうしたの?」
「すみません。どうにもこうにも。本庁のほうに迷い込んできたのでお届けに来ました」
そして、ぎゅうぎゅうされている蒼を見て「ああ」とおかしそうに笑う。
「そういうことですか」
「いや。これはその。違うんだ。保住」
なんで水野谷が訂正しているのか意味不明だが。
水野谷は必死に言い訳をする。
「彼は今度のガラコンサートの主役の一人でね。まあ、蒼とは以前から面識があるんだけどさ。それはその……」
もごもごしている水野谷の隣に立って、保住は微笑む。
「まあいいじゃないですか。そういうことは」
なにがいいのだろうか?
水野谷は首を傾げる。
ショルは一生懸命、ここに来るまでの大冒険を語る。
一人で東京までは来れたこと。
そこから先は迷子になりながら来たこと。
蒼の職場が分からないから、ともかく役所に行ってみたこと。
そしたら保住が助けてくれたこと……等々だ。
ショルにしたら言葉もよく分からない異国での大冒険だ。
苦笑してしまう。
『よかったね。保住さんは偉い人なんだから。本当は使ったりしちゃいけないんだからね』
『そっか。小さくてかわいいから蒼と同じくらいの人だと思った』
ショルは水野谷の隣にいる彼のところに行く。
『保住。ごめん。忙しいのに』
『構わない。それよりも無事たどり着いてよかったな』
『ありがとう』
彼は嬉しそうに保住のこともぎゅ~っとする。
「こ、こら!ちょっと」
水野谷はあたふただ。
ショルはどこでも問題ばかりだ。
『こちらこそ。逢えて光栄だ。マエストロ』
保住は大人の対応だ。
ぽんぽんと彼の肩を叩く。
ショルも満足したのか、身体を離した。
「それでは。おれはこれで。大堀に会議を任せてきたから帰らないと」
「悪いね」
「水野谷課長、失礼します」
保住が消えると、ショルはまた蒼のところに来る。
『蒼、案内して。せっかくきたんだし』
『だ、ダメだよ。おれは仕事中なの』
『そんな~』
人の予定なんてお構いなし。
なにも変らない男だ。
『待って。圭に連絡してみるから』
『圭じゃ嫌だ!』
そう言われても。
ともかく、携帯で連絡を。
「課長、いいですか?」
「そうだな。困ったな。関口にでも来てもらうしかないだろう」
駄々っ子みたいに文句を言っているショル。
蒼は携帯を持ってそそくさと事務室から出る。
それを追いかけようとしたショルだけど、星野に呼び止められる。
『写真を一枚いいですか?おれは星野といいます』
彼は満面の笑みでデジカメを持っていた。
そして、他の職員たちも、その後ろでにこにこして待機している。
「課長、みんなで写真を撮りましょうよ!そして歴代コレクションに入れましょう」
歴代コレクションとは星音堂の廊下に飾られている写真たちだ。
星音堂を利用した世界の音楽家たちの記念写真。
この施設の宝物である。
「それもそうだな」
水野谷は、ショルに話しかけた。
『写真。いいですよね?』
ショルはにこにこしている。
『もちろん!』
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