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80.家政夫は見た!3
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星音堂から本庁までは、自転車で10数分。
車でもそれくらいはかかる。
自転車と車が同じくらいの時間がかかるわけは、交通事情にある。
星音堂から本庁までの間。
入り組んだ一方通行の路が多い。
自転車だと、裏道をすり抜けてすいすいだ。
車はスピードが出る割に、遠回を余儀なくされる。
その辺りが、所要時間を同等にしている原因でもある。
逸る気持ちを押さえ、本庁の駐輪所に自転車を入れる。
入り口のガードマンに挨拶をしつつ、1号館に入る。
市制100周年室は1号館にあるのだ。
まずは会議室にいる水野谷に書類を渡してから、様子を見に行こう。
そう思った。
古いモダンな造りの廊下を駆け抜けて会議室に到着する。
305会議室はすぐに分かった。
中からもじょもじょ声が洩れているが、ノックしていいと言われているのだ。
深呼吸をしてから、静かにノックする。
一瞬、話し声は途切れ「どうぞ」と言う声が響いた。
「失礼します」
そっと扉を押すと、中には水野谷を初め、見たことがない中年親父たちが5、6人並んでいた。
「あの」
「蒼。ありがとう」
水野谷はそそくさと席を立ち、蒼のところにやってきて書類を受け取る。
「すまないね」
「いいえ。すみません。遅くなって」
「いいんだ。気をつけて帰りなさい」
「はい」
お父さんの言葉みたいで苦笑してしまう。
彼は「みなさん。申し訳ありません。資料が届きました」といいながら席に戻る。
蒼も慌てて一礼をしてから会議室を出た。
「緊張した……」
市役所のお偉いさんたちだろうか?
なんだか重苦しい雰囲気は、星音堂にいる蒼にとったら息苦しかった。
水野谷はよくいられると思う。
蒼だったら、さっさと用事を作って逃げ出したくなってしまうような場所であろう。
「は~」
大きく息を吐いてから、気を取り直す。
「今日はそれどころじゃないんだ」
よしっと気合を入れ、そのまま歩き出す。
見付かるだろうか?
出払っていたらどうしよう?
1階の玄関のところに出て、それから西館の入り口を開ける。
反対側の東館は障害係や生活保護の係があるから、相談の人でごった返しているが、西館は主に文化課などである。
そうそう相談もないのか?
こちらは部外者が入りにくい雰囲気だ。
そろそろと中に入ってみる。
きょろきょろするのも恐いが、そうしないと保住は見つけられないし。
勇気を出して左を向いてみる。
頭上には大きく「観光課」と掲げられている。
「は~……」
市役所職員のクセに一般市民よりも本庁に馴染みのない蒼。
一瞬、呆然と看板を見つめて止まる。
と。
「おい。お前。なにをしている」
背後から鋭い低い声が響く。
自分?
自分のこと!?
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